第1話 サイド 祝田咲 前編

 <サイド 祝田咲いわたささき

 祝田さき、20歳。総経大の大学2年生である。


 自分で言うなという話だけど、私は、子ども小学生のころから優秀だった。ギフテッドと呼ばれ、幸いにも顔も可愛いかったようで、生まれてからずっと住んでいた福岡市内でも有名な子どもだった。


 中学生になると、近隣の中学校からわざわざ見に来る生徒がいるほどで、中1の1学期だけで10人を超える人から告白をされた。なお、無論、すべて断った。


 そんな幸運(無論、告白されるのは幸運ではなく、むしろ不運だった。)に恵まれた私だが、バランスをとるためなのだろうか、両親運にはあまり恵まれなかった。


 悪い両親ではなかった。幼少期にはいっぱい愛してもらえた記憶もある。


 だけど、母は良くも悪くもお嬢様だったのだと思う。わがままで自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなる。私は優秀だから自慢されるし、可愛がってもらえたが、妹の彩矢あやは私と比べられて怒られることが多かった。


 私が小5、妹が小1の時に、祖父が亡くなった。私たちの一族の主軸で、博多の魚市場の戦後復興から発展までを支えた中心的な人物だったと聞く。引退後は、郷里の佐賀県で余生を過ごしながらも、博多にたまに出てきて私達にも旨いものを食べさせてくれていた。


 予約先の店の電話にはナンバーディスプレイなんてないところばかりなのだが、予約の電話で名乗りもしない。


「おぅ、俺だけどな。今からそっち寄るからな。席を6つ用意しといてくれ。」


 と、一方的に言うだけで予約完了。

 それでも店側は、電話してきたのが祖父だと把握し、しっかり個室を確保して、一番ベテランの仲居さんを付けて機嫌がいいままに祖父を帰したいと気遣ってもらえるくらいには博多の海鮮物旨い魚をだす名店の多くの店に恩を売っていた、そんな存在だった。


 そんな祖父が甘やかして育てたのが母と伯母、そして対照的に厳しくしつけられたのが、今一緒に住んでいる従兄いとこの祝田和馬かずにぃの父である伯父である。大正生まれの祖父は、その年代特有の考え方で、男性には、女性のわがままを受け入れ女性を守る大きな器を持つことを望んでいたのだ。


 祖父が亡くなった後に待っていたのは、遺産相続のごたごただった。


 伯母が常識外れの我儘わがままを言い、それに釣られて母も我儘わがままを言って伯父を困らせ、最後は伯父も怒り、親族は血肉けつにくの争いで裁判沙汰にまでなった。父も母をたしなめるべきだったが、母可愛さに強く言えずに流されていた。


 私は反対し、私たちの方が常識外れだと両親に伝えたが、母は伯母への遠慮もあって、伯父との対決に乗っかってしまった。この一件以来、私は、盲目的もうもくてきだった両親への愛が冷静なものに変わっていた。


 天罰てんばつだったのかもしれないし、運命だったのかもしれない。両親が交通事故で突如いなくなったのは、その2年後の私が中1、妹が小3の時だ。


 引き取られたのは伯母の家だったが、そこは最低最悪の場所だった。

 伯母は、わがままが過ぎたのか離婚し、私より一つ上の中2のひとり息子のY男(仮名)との二人暮らしだったが、福岡市内の広い家に住んで、働かずに祖父の生前贈与の財産で生活していた。裁判沙汰で民事調停手続をしてまで手に入れた財産を加えて、Y男(仮名)の養育費も支払わせており、当面の生活の心配はないという状況だったらしい。


 私は、伯母とY男(仮名)の二人のわがままを聞いて働く家政婦をさせられ、両親の遺産も管理すると取り上げられた。Y男(仮名)がテストで補習決定の点数を取ってきて、私がテストをいつものように満点をとってきた時には、女のくせに生意気だと伯母からもY男(仮名)からも暴行されることもあった。


 逆に機嫌が悪くないときにはY男(仮名)から、

彩矢あやちゃんは妻、で、お前は愛人にしてやる。」

 と全く望まないことを一方的に言われ、それを聞いた伯母から

「あら良かったわね。Y男(仮名)ちゃんに可愛がってもらえるなんてあなたたちは幸せ者よ。」

 と平気で言われるような日常的な環境だった。


 普通に児童相談所児相に訴えるべき案件だよねと分かっていたが、彩矢あやのこともあり下手に出ている日々を過ごしていたが、Y男(仮名)に性的に襲われそうになり、突き飛ばして怪我をさせた事件を契機に、祖母、そして従兄の和にぃかずにいに助けを求めたのだった。

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