第7話 防衛戦と殲滅戦

 <サイド 祝田咲>


 ネコの異世界に来て3年。


 リザードマンが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 この攻撃により、ようやく猫人にゃんとも危機感が出てきたが、私たちが居なければ猫人にゃんとは滅亡していただろうなと思う。


 私たちは、この一斉攻撃を完全に予見できていたし、その対策が十分に行えていた。猫人にゃんと達には悪いが、彼らを信用して委ねるということは一切考えていなかった。


 和にぃかずにいによると、近代戦闘と、それ以前の戦闘で大きく変わったのは、要塞戦という概念が生まれたことによるらしい。こういう知識はさすが男の子である。


 織田信長なんかが特によく用いていた手法で、いかに早く要塞となる砦を築き、そこに攻め込ませるかという戦闘方式が味方の損害を極限まで抑える手段だったそうだ。長篠合戦では鉄砲が有名だけど、あの戦いの本質は、柵をもちいて簡易の砦を築き、そこに攻めてこさせたうえでアウトレンジから一方的な攻撃を集中させるという点にあったと和にぃかずにいは言う。


 第一次世界大戦では、塹壕を掘ることが戦争で、工兵をいかに活用するかが戦争の勝利のカギを握っていた。そして、要塞をそのまま動かせば、簡単に勝てるという発想で生まれたのが戦車だ。どちらも余談だけど。


 私たちが、槍にこだわったのはアウトレンジから一方的に攻撃する手段を得るためだった。リザードマンが各地の都市に迫ると、その地域の道場主や道場の生徒が中心になり、事前に準備していた鉄の柵を立ち上げ、一方的に槍で突いてリザードマンを殲滅した。


 鉄の柵が設置していない場所では槍衾やりぶすまと呼ばれる方法を用いた。300cmを超える長さの柄に槍の穂先を取り付け、一列に並び隙間がないようにして、殲滅せんめつしていく。リザードマン達は、自身で100cmを超える剣を製作し、十分な数を揃えており、アウトレンジから猫人にゃんとを一方的に攻撃し圧倒的な優位を持っていると信じていた。


 しかし、現実は、300cmの槍や200cmの槍と鉄柵に阻まれ、一方的にアウトレンジからの攻撃を受けることとなり、遠距離からの攻撃について十分な準備をしていなかったリザードマンは各地で敗退を繰り返していく。


 リザードマン達は、猫人にゃんとの中に得ている自分たちに利する者たちを操れていると思っていたが、実際には私たちが情報をコントロールして、リザードマンが圧倒的に優位であると錯覚させていたのだ。


 実際には80cmの剣を超えるものをつくることには全くこだわりを持っていなかったのだが、そこで停滞しているようにリザードマンには思ってもらった。槍の穂先を作ることに多くの鍛冶師に協力してもらっていたが、そういうリザードマンにとって重要な情報は一切伝えられることはなかった。


 種族の違うリザードマンが猫人にゃんとをスパイにするには無理があったのだが、それに彼らは気付けなかった。猫人にゃんとに浸透させようと苦心していた「種族の違いは大した問題ではなく共存共栄できる」という題目は皮肉にも彼ら自身に浸透してしまっていて猫人にゃんとのうちの一部を裏切り者にできると誤信したのだ。


  リザートマンが海では無敵、地上でも我が上と信じて疑っていないこの状況こそ私達が苦心して作り上げた状況であった。海での優位性すらも私達が転移してきた時点で失われていることに一切気付かせないよう苦心したが。(主に和にぃかずにいがだけど。)

 

 <サイド 祝田和馬>

 自分にとって、猫人にゃんとはモフれるが、リザードマンにはモフれる余地がなく、狩りの対象以外にはとらえようがない存在だった。猫人にゃんとの多くにとってもリザードマンを友人だと思っている者はいなかったし、自分たちに利益を献上する存在程度にしか思っていなかった。


 ネコは良くも悪くも自分が圧倒的に可愛くて特別だと思っているのである。


 善良なリザードマンですと自称して街に入ってくるリザードマンに自分たちや猫人にゃんと達も笑顔で応対していたが、それらはすべて油断してもらうためでしかない。


 今までに征伐してきた不逞のリザードマンは警察権の行使により、一匹残らず容赦なく死滅させていた。それもただの死滅ではない。


 異世界転移特典2、異世界で使う特典としては最大にして最後の特典を自分たちは異世界からサメを連れていくことで猫神様マリン様と合意していた。東京湾をはじめとした各地の入り江になっているところで大量のサメを育て、不逞リザードマンを全て餌(時には生き餌)として活用した。


 幸いサメは、リザードマンの味を好んでくれた。


 サメはリザードマンの血の匂いを嗅ぎ分け、数キロ先からリザードマン目指して突撃していくようにまでなっていた。サメはリザードマンのように知性がでてきていないし、エラ呼吸の生物であるため陸上型に進化するには万年の単位の時間がかかるだろう。


 猫人にゃんと達の楽園においては、サメによる脅威ということは当面考えなくていいだろう。


 海を本拠として発展したリザードマンはいずれサメにより駆逐される。陸に上がることも叶わず、短時間のうちに種は滅びることであろう。さき猫神様マリン様に約束した防衛協力は既に果たされたのだ。

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