第2話
その日帰宅すると、80歳になる祖父の
「すぐに食事にするわね」
話しかけながらキッチンロボットに指示を出す。祖父の胃にも優しい
安国の
――チーン――
電子音が鳴りキッチンロボットのハッチが開く。料理と共にスマホに請求書が届いていた。
「了解」
請求書のボタンをタップ、支払いに回す。料理を取り、テーブルに並べて祖父を呼んだ。
「あぁ」
彼は力なく応じて食卓に移動した。
食事をしながら、次の休みの日にデートに出かけると告げると、彼はまなじりをつり上げた。
「私を放っておくのか?」
「お昼の準備はしておくから。仕事の日と同じよ」
「デートは認めん。もちろん結婚もだ」
「結婚なんて考えていないわよ。ただ、彼が資格を取ったらデートをすると約束したから」
「そんなことで……。この、尻軽女!」
「おじいちゃん……」この、わからずや!……胸の内で非難し、話すのを止めた。
結局、ぎくしゃくした雰囲気のまま、休日の朝を迎えた。安国が反対していると、レンにデートを断ることはできた。が、そうはしなかった。心のどこかで、彼に魅かれているのは間違いなかった。
世那が目覚めた時、安国は家にいなかった。顔をあわせたくなかったのだろう。動きにくい身体を動かし、どこかに散歩に行ったようだ。
「おじいちゃん、どこにいるの?」
電話をすると『散歩だ、昼までには帰る』と返事があった。
「帰り道はわかるの?」
『ボケ老人扱いするな』
その声に穏やかなものを覚え、朝食と昼食をテーブルに並べてデートに出かけることにした。
うっかり約束したのだから。五つも年下だし。……頭の中で言い訳を繰り返して嫌々感を膨らませたが、洋服を選ぶ気持ちはいつになく躍っていた。
デートって、どこに行くつもりなのかしら?……水着の話は出なかったから海はないだろう。もちろん、登山もないわね。車は持っていないはずだから、ドライブもない。……映画館、水族館、動物園、植物園、遊園地、博物館、美術館、レストラン、展望台、公園……、様々な行先を思い描き、そのたびに衣装を選びなおした。
ホテル!……ひとつの単語が浮かんだ時、頬が燃えた。ぶるぶると頭を振る。……最初のデートでそれはないわ。第一彼は子供だし、きっと、童貞よ。
世那自身、性的な経験は多くない。いや、年齢からすれば少なすぎると言えるだろう。すべては祖父を心配させまいとしたためだった。彼は昔から、世那が男性と付き合うのをひどく嫌うのだ。
暦の上では秋だけれど、そんなものはずっと昔になくなってしまったらしい。晩夏というのがふさわしい。まだ気温が高いので薄手のワンピースを選んだ。ずいぶん昔に買った少し幼いデザインだけれど、レンの年齢を考えれば、それがいいと思った。
普段は身につけないネックレスとブレスレットをすることにして、ベッドに広げたワンピースの上に置いてみる。
無意識の内に、彼にふさわしい女性を演じようとしていた。
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