私のママ 2

クロノヒョウ

第1話



「あ、ねえママほら、もうすぐハロウィンだね」


 ママと一緒に読んでいた雑誌の記事を見て私はそのページを指差した。


「ハロウィン……どれどれ」


 ママがそのページを覗き込む。


「ああ、確か昨年は仮装大会に出たんだったわね」


「そう! ママが優勝したの! でもそれからすぐにお引っ越ししなきゃだったけどね」


「ふふ、そうだったわね。今年はどうしましょうかね」


 ママはそう言って雑誌の記事を真剣に読んでいた。


「あら、この地域では何も知らない近所の子どもたちが勝手にお菓子をもらいに家に来てくれるらしいわよ。それなら……たくさんお菓子を準備しておこうかしらね」


「わー! 楽しみだねママ」


 私は大好きなママに抱きついた。


 私のママは世界一美しい魔女だ。


 人間界にまぎれ普通の人間のように生活をしている私たち魔女は歳をとるのが遅い。


 そのため同じ場所に長くいることはできないのだった。


 見た目が子どもの私は特にそうだ。


 子どもが何年もまったく変わらないと人間に不信感を抱かれてしまう。


 それはいつまでも美しいママも同じだけど。


 ママの見た目もじゅうぶん若いのに美容のためだと言っていつも自分で調合した不老のお薬を飲んでいる。


 私の自慢の美しいママ。


「そうと決まれば早速フルーツでキャンディを作りましょう」


「うん!」



 そしてハロウィン当日。


 夜になるとだんだんと外が騒がしくなってきていた。


 ピンポーン――


「わっ、きた! 私出るねママ」


 私はドキドキしながら玄関のドアを開けた。


「トリック・オア・トリート!」


 近所の子どもたちが仮装しているのだろうか、カボチャのお化けと骸骨とゾンビが立っていた。


「いらっしゃい、みんな口を開けて」


 私はママが作った特製キャンディを差し出した。


 素直にあーんと開けた子どもたちの口の中にキャンディを入れた。


「ありがとう!」


 お礼を言ったかと思うと子どもたちはバタバタと倒れていった。


「うーん、さすがはママの手作り。効き目が早い」


 私は倒れた子どもを一人ずつ引きずって家の中に入れた。


「ママ、この子たちどうするの?」


 私は奥で準備をしているママに向かって叫んだ。


「待ってて、少しだけママが精気をもらうから。大丈夫よ、すぐに目を覚ますから。ここの記憶も失くなって元気に帰れるわ」


 そう言いながら魔女の姿に戻ったママが玄関口に顔を出した。


 久しぶりに見るママの魔女の姿に私はワクワクしていた。


「ママカッコいい!」


「そう? やっぱりママはこの姿はあまり好きじゃないけどね」


 ピンポーン――


 またチャイムが鳴った。


「はーい」


 ママが玄関のドアを開けた。


「トリック・オア・ト…………ウワァッ!」

「ギャァ――!」


 ママの姿を見た小さなミイラ男とドラキュラが叫び声をあげて倒れた。


「ちょっと何よ、あなたたち」


 倒れた子たちに向かってママが言った。


「人の顔を見て気を失うなんて失礼ね」


 ママはぶつぶつ言いながら倒れている子どもたちを家の中に引きずりこんだ。


「そんなにママの顔、恐いかしら?」


 ママが私に聞いた。


「ううん。その長くて尖った鼻も大きく裂けたお口も、どす黒くてシワだらけの皮膚もつり上がった目も、ママは全部カッコいいよ」


 私はママに抱きついた。


「そう? ありがとう」


 ママも私をギュッと抱き締めてくれた。


「……フルーツキャンディ、いらなかったわね」


「あは、本当だね。さすがはママ」


 私はママと笑いあった。


「さあ、早く精気を集めて起こしてあげましょ」


「うん」


「それにしてもあの釣り雑誌に書いてあることは本当だったのね」


「ああ、あの『人間の釣り方特集』の記事?」


「こんなに大漁とはね。ふふふ」


 ママは楽しそうに笑いながら子どもたちの口から精気を集めていた。


「ちゃんとキャッチアンドリリースしなきゃだね」


 私のママは世界一美しくてカッコいい最強の魔女だ。




          完






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