第六話 カウンセリング、みたいな

「うわー……やっぱ幻覚じゃなかったか」

 不法投棄のゴミを避けながら河原を降り、弓手橋の下に私は顔を覗かせた。そこには昨日と同じく黒い塊がいた。

「やあ。今日も来てくれたんだね。嬉しいなぁ、今日もお話出来るなんて」

「そりゃどうも」

 私はリュックを投げ捨て、カブの横に腰を下ろした。相変わらずコンクリは冷たくてちょっと身震いする。

 今日も学校は午前で終わり、また火野と谷山と三人で一緒に帰ろうかという話になった。しかし私は、橋の下でテレパシー能力を持つデカい牛と会話するという改めて考えてみるとマジ意味不な体験が、どうしても忘れられなかった。だからこの目でもう一度確かめるためその誘いを断り、自分の目で確かめるべく弓手橋に赴いたのだ。

 結果、あの体験は夢でも幻でもないことが証明されましたとさ。

「あー、疲れたー!」

 伸びをして全身の筋肉をほぐすと、さっきコンビニで買った鮭おにぎりをポッケから出す。

「疲れたって、何か運動でもしたのかい? 確か……『体育』って言うんだっけ?」

「いやまあ、今回は『レクリエーション』ってやつだね。うわっ! ミスった!」

 袋の開け方をしくったせいで海苔が破け、白米が剥き出しになる。この袋を左右に引っ張る開け方、いつまで経っても慣れねえ。

「どうしたの⁉ 何か不味いことでも起きたのかい⁉」

「別に……大したことじゃないけど。で、カブは『レクリエーション』って分かる?」

 仕方なくそのまま失敗鮭おにぎりを頬張りながらカブに尋ねる。

「いやあ、さっぱりだね。だから教えてほしいなあ」

 妙な馴れ馴れしさに苦笑しつつ、私は説明を続ける。

「その、何と言うか、新しい仲間たちと親交を深めよう的なイベントだよ。やることは『体育』とあまり変わんないけど、まあ体育と違って遊びメインだね。それでソフトボールをやるってになってさ」

「そうなんだね。それで、『ソフトボール』ってのはどんな競技なんだい?」

「そこもぉ?」

 呆れすぎて思わず声に出てしまったが、子犬みたいに可愛く振られるカブの尻尾を見ると流石に退けなくなってしまった。

「えっと……簡単に言うと、投げられた球を棒で打ち返す競技、かな。細かいルールはめんどいから割愛しても良い?」

「大丈夫だよ。ありがとねえ」

 素直なカブに嘆息しつつ、私はおにぎりの最後の一口を頬張る。

「その『ソフトボール』で、楓ちゃんは活躍したんだね」

 思わず米を噴き出しそうになった。なんで? なんで分かったんだ? そりゃまあ活躍はしたけどさあ。まさかカブのテレパシーって送るだけじゃなくて思考も覗き見れるのか?

「いや、声音が聞いた感じ嬉しそうだったからさ……。もしかしたらと思ったんだよね。当たりかい?」

「当たりだよ……。マジか、私そんな態度に出てた?」

「僕の耳が良いってのもあると思うけどね。それで? どんな活躍をしたんだい?」

 尻尾を振り回して、カブは私にせがんでくる。私は三つ編みを弄りながら、今日のレクを思い出した。まあ、話してやっても良いか。ここで無駄に断るほど、私も鬼じゃない。

「そうだね……まずは————

 私は今日のレクの記憶を辿った。

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