第2話 「23日かな!祝日だけど」
「23日かな!祝日だけど」
綾から返事が来たのは
その日の深夜0時を過ぎた頃だった。
わざわざ一度見たことのある
古い映画のDVDを部屋の隅から見つけてきて、
ベッドに横たわり虚にそれを見ていた僕は
返信されたメッセージに気づき、
映画の再生を止めてベッドの上に座り込んだ。
これまでマッチングアプリの中で
女の人と知り合うには根気が必要だった。
アプリにはGPSで近隣の人を探す機能があるのだが、田舎だと人がいない。
ようやく繋がりができたとしてもそこから始まる面倒な自己紹介や
趣味の話でお互いの近況を重ねてゆく。
それはあまりにも長く時間の要する地道な作業だった。
時には数日間も続けねばならない不気味で生ぬるい自己紹介が、
疲弊した生活の中の貴重な時間をじわじわ蝕んでゆくのに我慢しながら何とか耐えるのだが、
次第にご機嫌取りのような関係を保つのが
面倒になり返信をやめて放置してしまう。
そうなると僕は死んだやり取りの履歴を見てしまわないように、
その出会いは初めからなかったかのように、
やり取りを消す。
現実味のない作業だけの日々がもう随分と長く続いていた。
得体の知れない何かが、サビのように体にまとわりついて重たく感じる体、
精神を
仕事の締切に追われているからでも、
休日の少なさでも、そのどちらでもなかった。
仕事のスケジュールを確認すると
綾の希望のその日は空いていた。
その翌日も調整することができる。
「じゃあ、23日でお願いします。
車だしましょうか?楽しみです!」
そう返信して、
──楽しみ
という言葉を使った
自分にすぐに違和感を感じた。
だが、返信は考える暇もなく来た。
「お願いします(^ ^)松本駅でいいですか?」
「了解です、何時にしますか?」
「お昼12時でどうですか??」
「大丈夫です」
「では、よろしくお願いします^ - ^」
あまりにも滑らかに流れるメッセージに
かつての生ぬるさは
「こちらこそ!」
慌ててスマートフォンの画面を指で叩いた。
綾からの返信はなかった。
カレンダーを見る。
11月23日。
今日の日付の真下にある約束の日、
僕は綾と本当に会っているのだろうか。
映画の続きなど、
既にどうでも良くなって
ベッドの上に倒れて目を閉じた。
ごうごうと風の吹く音で目を覚ました。
あれから3時間経っていた。
さっきまでの綾とのやり取りが
現実味を失っている事に気づく。
綾との約束の存在がぐるぐると脳裏を駆け巡る。
思えば幼い頃、
友達との約束は
いつもこんな幻の中にあったような気がする。
──それでもあの頃は何も疑ってはいなかったなと思う。
彼女は今、
どんな生活を送りながら
毎日を送っているのだろうと想像した。
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