第7話 ホンモノの勇者の見つけ方 



「こらこら君たち、可哀そうなお姉さんをイジメてはいけないよ!」と、その若い男は自分の陰気臭さを振り払おうとでもするかのように、ニッと笑顔をつくって言った。 


「か、可哀そうだと! 最強悪魔と呼ばれたこの私が・・・」

 ミィーリィーが眉を吊り上げた。


「いいんだよ、こんな女!」

「そうだよ、チジョ、なんだよ!!」

「ぼくたちに近づいて、自分のハダカを見せてきたんだ!!」

 男の子たちが叫んだ。


「えっ? ハダカ? そうなの?」

 男が振り向き、目をパチクリしてミィーリィーをまじまじと見た。

――う~~む。確かによく見ると、変質者の定番アイテムである、ロングのコートを着てはいるが・・・。


「ち、違う! ちゃんと着ている。決して裸などではない!」

 その男の刺さるような視線を感じ、慌ててミィーリィーが否定した。


「ウソつけ、このへんたい!!」

「へんしつしゃめ!」

「そうだ、お母さんに言って幼稚園のSNS 連絡網に不審者情報流してもらうぞ!!」



「まあまあ、君たち、もうそれくらいにして許してやってくれないか?」

 そう言って男は持っていたコンビニ袋に手を突っ込むと、

「ほら、ここに肉まんとあんまんがある。今さっきコンビニで買って来たホカホカのものだ。ピザまんもあるぞ。これをあげるから、もう許してやってはくれまいか?」


 男の子たちはどうしようかと顔を見合わせている。

「よ~し、わかった。ついでに、このマミマ限定スイーツの『こってりクリームチョコエクレア』も付けようじゃあないか!!」


「うん、わかった!!」

 一人が手を出してマミマのコンビニ袋を受け取った。

「じゃあ、代わりにこの女、お兄ちゃんにやるよ!」

「そうだ! お兄ちゃんの好きにしていいよ!」


「えっ? 好きにしていい? マジで? ホントか!!」

 男が振り向いて嬉しそうにミィーリィーを見た。

 

「ひっ、お、お前たち、な、なにを言っているんだ・・・」

 ミィーリィーが思わず一歩二歩後ずさった。


「じゃあね、お兄ちゃん、がんばれよ!!」

「行こうぜ!」

「もう、五時過ぎてるしなぁ」

 手を振って、三人とも元気に駆けて行った。



「やれやれ・・・、最近のガキンチョはしょうがねえなあ・・・」

「き、貴様! わ、私に何をする気だ!!」

 トレンチコートの前を合わせてミィーリィーが叫ぶ。

 肉まん、あんまん、マミマの限定スィーツで売り飛ばされたミィーリィーが怯えている。ニーポンに来て、ほとんどの魔力を失い、相当弱気になってしまっているようだ。


「えっ? そんな、別に何もしないですよ。そんなことしたら、こっちが捕まっちゃうじゃないですか」

 もう、やれやれと言った表情で頭を掻いている。


「ま、まことか?」

「はいはい、マコトですよ。そんじゃ・・・」

 背を向け、挨拶代わりに右手を軽く上げ、立ち去ろうとした。

――なんか、このお姉さん、関わっちゃいけない系の人だったみたいだ。余計なことしちゃったなぁ。 あ~あ、晩飯また買い直しかぁ・・・。


「ま、待て!」

 ミィーリィーが呼び止めた。

「はい?」

 男が振り返る。


「わ、私は、人を捜している!!」

「ヒト? ああ、そう、なんですか・・・」

「よ、よかったら、一緒に捜してもらえないだろうか?」

「えっ? あ~、でも、そーゆーのはおまわりさんにでも聞いた方が・・・」

――ああ~~、この人、めんどくせぇ~~


「そこをなんとか、頼む! 私はこのあたりは初めてでよくわからないのだ。その、お前以外に頼る者も・・・」

「そう言われても・・・。で、どういう人ですか? まあ、俺が知ってるわけないと思うけど・・・」

 戸惑いながらも、仕方なく話に応じる。人のよい男だ。


「勇者だ…」

 ポツリとミィーリィーがつぶやく。

「勇者?」

 男の目が点になった。


「そうだ」

「そ、そりゃまた、なんと言ったらいいか・・・」

「この辺で名高い、勇者と呼ばれている者は居まいか?」

「ゆ、勇者ねえ・・・。何か他に特徴とかは?」


――わぁ~、ダメだ。やっぱこの人ヤバイ人だぁ~


「うむ。特徴か・・・。そうだな、『げえむ』、『あーにめ』、『らあいとのーぶる』とかいう流行り病にかかり、日がな一日、館から一歩も外へ出ないそうだ」

「ヘ、へぇ~~、そうなんだ…」


――な、なんだ~、それってほとんど、俺のことじゃん…


「ま、まあ、そういう引き籠っている人とか、ニートみたいな人とか、今時は結構多いし、珍しくもないから、そんなの特徴と言うほどでもないかもしれませんねえ。アハ、アハ……」

 そう言う声がうわずって、裏返っている。


「そ、そうなのか? なるほど、やはり『おおたく』の流行り病とは恐ろしいものなのだな・・・」

「そ、そうですねぇ…」


――病って、オタクは病人扱いかい!!


「そうだ、名前ならわかっているぞ!!」

「ああ、それなら見つかるかもしれないですねえ・・・」


――その勇者の名は、サイトウ タクヤだ!!


「へっ?!! ・・・・・・なんで、俺の名前、知ってるんですか?」

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