第5話 デ〇モ〇閣下的なヤツ



「はい、はい、ごめんなさいよ、通してね。警察ですよ~」

「皆さん、少しお下がりください!」

 声がして、男女二人の警察官が、人集ひとだかりのできた噴水に近づいて来た。人々がゆるゆると左右に退いて道ができる。

 

「ちょっと、あなた、そんなところで何しているんですか? そこから出て来なさい!」

 女性警察官がミィーリィーに声を掛けた。

「はい、みなさん、もう少し後ろに下がってくださ~い!」

 もう一人の警官が後ろを向いて、見ている人たちに下がるように促す。


 こちらに向かって呼び掛ける二人の姿に気が付き、落ち込み、俯いていたミィーリィーが顔を上げた。

「なんだ? 私に言っているのか?」

「なに言ってるの~。 お姉さん、この寒空に、噴水に入ったりなんかしちゃダメでしょ。風邪ひくよ~。しかも、そんなセクシーなカッコで」

 そう言う若い警官に、隣にいた女性警察官が横目で睨んだ。

「栗田巡査!!」

「おっと! こりゃどうも。――お姉さん、とにかく早くそこから出てきてよ」


 言われたミィーリィーが、二人の目の前までやって来た。

「あなた、ここで何をしているんですか?」

 女性警察官、石井巡査長が厳しい口調で尋ねた。

「別に何もしていない。墜ちただけだ」

「落ちたですって?」

「そんなお姉さん、噴水覗いてて落ちたの? まさか、子供じゃあるまいし」

 栗田巡査が半笑いで言う。


「違う。上からだ」

 ミィーリィーが真顔で答えた。

「上?」

「そうだ、空から墜ちてきたのだ」


「ちょっと、石井さん、この子、きっとヤバイ子ですよ。人目もあるし、派出所まで連れて行った方が・・・」

「そうね、そうしましょう」

 石井巡査長も周囲の人集りを見廻して同意した。


  ****


 駅前の派出所で、大きめのタオルを肩から掛けられ、机の前に座らされたミィーリィーが、石井巡査長と向かい合っている。


「で、あなた、名前は?」

「ミィー・・・、い、いや、美里」

 ミィーリィーには、転移前に賢者ベルゼから授けられた「先場美里さきばみり」というニーポン名があった。


「そう。美里さんね、年齢は?」

「うむ、10万19歳になる」

「えっ? ああ~~、『デ〇モ〇閣下』的なヤツね?」

「なんだ、それは?」

「まあ、いいわ。でも、ここではそういうのはいいから真面目に答えて。・・・じゃあ19歳ね?

・・・それで、どうしてあんなことしたの? それにあなた、着替えの服はどうしたの?」

「着替えなど持っていない。私は10万年以上ずっとこの格好だ」

「えっ? もう、だからそういうのはいい、って言ったでしょう」



「おい、なんだ、あのイカレタ子は?」

 少し離れた場所から、二人のやり取りを見ていた中山巡査部長が栗田巡査に尋ねた。

「あ~、さっき、そこのロータリーの噴水に入っているとこを拾って来たんですよ」

「あの姿で? この寒いのに?」

「それもそうなんですが、あれじゃ公然わいせつまでいかなくても、まずいんじゃないかって。石井さんが言って」

「まあ、そうだな、何事も未然に防ぐことが肝要だ」


「でも、見物人は随分喜んでいましたけどね」

 栗田巡査がその時のミィーリィーの姿を思い出したように言った。

「そ、そうだろうなぁ~。かわいい子だしなぁ~」

 中山巡査部長の顔もニヤケている。

「ですよねえ~」


「二人とも何言ってるんですか!!」

 二人の会話が聞こえていたようで、こちらを向いた石井巡査長の怒鳴り声が響いてきた。

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