勇者になった覚えもないのに 魔王の手先のかわいいサキュバスに狙われている

第3話 ミィーリィーの覚悟

「何だ？　その『げえむ』とか『あーにめ』とかいうものは？」

　ルシフェルが眉を寄せて尋ねた。

「それは・・・、それらの流行（はや）り病を総じて『おおたく』と称するということ以外、私にも、定かにはわかりかねます・・・。が、しかし、この病に罹（かか）った者は、恐ろしいことに成人した後も、自らの館からほとんど外へ出ず『げえむ』、『あーにめ』、『らあいとのーぶる』の治癒（ちゆ）のための儀式を、日がな一日行うのだそうでございます。そうして……」

「どうした？　続けよ！」

　言い澱（よど）んだ賢者ベルゼに、魔王ルシフェルが先を促す。

　気を取り直した賢者ベルゼが話を続けた。

「……そうして、時が満ちると、頃合いを見て館から出（い）で、かの世界で暴れまわる『とーらっく』なる獰猛（どうもう）な車に、轢（ひ）き殺されそうになっている幼子（おさなご）や女子（おんなご）を救う代わりに、自らの命を捧げ、異世界へと旅立つのだそうでございます」

「な、なんと！！　自らの命と引き換えとな？」

「お、怖ろしい・・・。命を賭（と）してこの世界に転移・転生し、我々を襲ってくるとは！！」

「凄まじき執念・・・。まさに狂気の沙汰！」

　一同が口々に恐怖の言葉を発した。

「う～～む。近頃のエセ勇者たちの大量発生の裏に、そのようなカラクリが…。――しかし、このままではいずれ必ず…、そう本物の、真の勇者が、魔王であるこの俺の首を狙い、ここへやって来ることは明白だな」

　と、その時、

「そのようなことはさせませぬ！！　絶対にそのようなことは……！　賢者ベルゼ、私にその『ニーポン』国へ行く方法をお教えください！！」

　美しきサクバス、ミィーリィーが叫んだ。

「ミィーリィー、何を言っている！」

　驚いて振り返ったルシフェルが言った。　

「私が、『ニーポン』国へ行き、本物の勇者が転移・転生する前に、必ずやそやつの首を取り、亡き者にしてみせましょう！！」

　――おおっ！！　一斉に声が上がった・・・。

「・・・・・・い～やいやいやいや、殺しちゃダメだろ！！　勇者、こっち来ちゃうじゃん！！」

　一人冷静に分析した魔王ルシフェルが慌ててダメ出しをした。

「へっ！？　あっ…！　・・・で、では、勇者が決して死ぬことのなきよう、『ニーポン』国で私がそやつめをいつまでも見守っておりましょうぞ！！」

「・・・・・・」

　集まっていた大悪魔の幹部たちがあっけにとられる。

　――コイツ、何言ってんの？　

　殺してはいけない勇者の元へ行き、転移・転生しないように見守り、一体何をどうするというのか？　集まっていた他の幹部悪魔たちも一斉にざわつき出した。

　しかし、一度言ってしまった手前、自らの面子（メンツ）を保つために、いよいよミィーリィーは後へは引けなくなってしまった。

　――くう～～、し、しまったぁ～～～。どうする～～？　ええい、もう仕方ない、とにかくこのまま『ニーポン』国へ行くしかないわ！！

「ムムム…。賢者ベルゼ、『ニーポン』国にいる、本物の、真の勇者の名をお教えください！！」

「ミィーリィーちゃん、ホントに行くの？　意地張らないでやめといたら？」

　あきれ顔で賢者ベルゼがミィーリィーの耳元にそっと囁（ささや）いた。

「あ、悪魔に、二言（にごん）はありませぬ！！　絶対に勇者を守り、決して死なせはしません！！」

　――ホント、何言ってんの、この子？

「ふむ。そうか、そこまで言うなら教えよう。いずれ、大魔王ルシフェル様と並び立つ、真の勇者、その名は・・・」

　――サイトウ　タクヤ！！