コインランドリー ーThe Detactive KP

KPenguin5 (筆吟🐧)

コインランドリー

「紫音君~、ほんとあなたは見てるだけで寿命が延びるわ~。」

今日のママは変なテンションだ。ここは紫音がやっているBar KING。

今夜のお客は下の階のゲイバーQueenのママとキャストのモモちゃん。どうやら二人共しっかり出来上がっているようだ。

今夜はQueenは臨時休業らしい。Queenは僕の実家の家業である酒屋の上得意だ。僕も配達でいつも出入りしている。

「ちょっと、迅君、そんな隅っこで呑んでないで、こっち来て一緒に呑みなさいよぉ。ほら、モモちゃんの隣に座って!マスター、迅君にも何か作ってよぉ。」

あ、見つかっちゃった。

「あ、はい。じゃぁ、ちょっとお邪魔します。」

ママの変なテンションに絡まれまいと、端っこのほうで呑んでいたのに、巻き込まれてしまった。僕はしぶしぶモモちゃんの隣に座った。どうやら今日は帰れそうにないみたいだ。

モモちゃんは源氏名がピーチなのだが、ママも常連も呼びにくいとモモちゃんと呼んでいる。でも、本人はマリオブラザーズのピーチ姫から名前をとったらしく、改名をするつもりはないらしい。


「ごめんね、迅君。ママこの前付き合ってた彼氏と別れたのよ。それで今日は荒れてるの。」

ピーチが僕に耳打ちしてきた。

「あら、モモちゃん。私別に傷心じゃないわよ。そもそもこっちから振ってやったんだし。あんな奴、別れて清々しているわ。男なんて星の数ほどいるのよ。もっといい男見つけてやるわよ。」

ママがウイスキーを煽りながら、息巻いた。

「はいはい。そうね、さっきの店ではオイオイ泣いていたのにね。紫音君の前だと強がっちゃって。ほんと、ママって乙女なんだから。」

「あら、あの涙はね、彼のために流した涙なの!私みたいないいオンナ捨てて、何もわからないような小娘のところに行ったのよ。あんな小娘じゃ何も出来っこないのに。だから、彼のために泣いてあげたのよ。」

「はいはい。そういう事にしときましょうね。」


「じゃ、これはママの卒恋記念ということで。俺のおごりね。」

カウンターの向こうにいた紫音がみんなの前に出したのは、バニラアイスの乗ったチョコレートケーキだった。

「キャー💙紫音君のチョコレートケーキ。うれしいわ。ありがとう!!」

ママは大喜びをしている。普段の声のトーンより数段かん高い声が出ている。

確かに、紫音の作るスイーツは絶品だ。

ここはBarであるにもかかわらず、常連の間では紫音の作るスイーツを目当てに来る客も多い。そして、このチョコレートケーキは特に評判がいい。

ビターなカカオの香りがして甘すぎず、口に入れると程よいカカオの苦みとミルクのコクが広がって、とろけるような食感がたまらない。

「ほんと、紫音君。パティシエになればよかったのに。こんな甘いマスクのパティシエのいるスイーツ店でこのクオリティだったら、絶対流行るわよ。」

モモちゃんが、チョコレートケーキを頬張りながら、心底もったいないという顔をした。

「俺は、夜の商売のほうが性に会ってるんでね。昼の商売はオーナーに任してるから。」

紫音のスイーツは偶にカフェのPRINCEに卸している。近くのOLや女子高生、大学生なんかに人気で、入荷するとすぐに売り切れるとカフェのマスターが話していたな。

このチョコレートケーキはお酒とも相性がいいというのは、やはりここがBarだからか。

「紫音君。ウイスキーをロックで。」

ママはまだまだ飲むつもりらしい。


「そうそう、ねぇ迅君。今朝、妙なことがあったのよぉ。ちょっと聞いてくれる?」

モモちゃんが思い出したように言った。

「興味をそそられる話?」

「たぶん、興味あると思うわよ。なんか、スパイ映画みたいな話だもの。」

「へぇ、聞いてみたいな、話してよ。」

僕はたいして興味もなかったが、聞いてみた。

「今朝ね、いつも行くコインランドリーに洗濯に出かけたのね。そのコインランドリーはかなり古くて機械とかも古い型の洗濯機でさ。でも、安いし家からも近いし、あんまり人も来ないからいつも行くんだけど。

そこに見たことのない男の人が洗濯しに入ってきたの。ビシッと黒のスーツ着て、サングラスなんかしちゃって。コインランドリーにはすごく違和感のある感じの人だった。そもそも、そこのコインランドリーで知ってる人以外来てるの見たことなかったし、でもまぁ最近越してきた人なのかなぁぐらいに思ったわけ。

そしたら、その人電話しだして。その内容がまたすごく妙ちくりんなわけよ。なんか、数字とアルファベットを羅列してて。なんか暗号みたいだったのよ。」

コインランドリーで黒ずくめのサングラス。電話で暗号のような数列。

なんかスパイ映画というよりも、小さな男の子が事件を解決する人気漫画のようだけど。

「暗号?」

「そう、A-20 35705025 1397315332…とかはじまってえっと。」

モモちゃんが遠くのものを見るような眼をして、記憶を呼び起こそうとしている。

「え?モモちゃんもしかして、その電話の数字覚えているの?」

僕はびっくりしてモモちゃんに聞いた。

すると横からママが身を乗り出して、自慢げに言った。

「あら、迅君。うちのモモちゃんの記憶力、舐めないでほしいわね。

この子、一度聞いた数字は忘れないのよ。うちの一日の売り上げなんか、電卓たたかなくてもすぐに計算できちゃうんだから。なにせこの子の頭の中に記録されてるんだもんねー。」

「えーほんとに?すごいじゃん。じゃ、その数字言ってみてよ。」

紫音も乗ってきた。

「わかった。覚えてるわよ~。えっとね。」

「あ、ちょっと待って、面白そうだからメモしてみるわ。」

紫音がメモとペンを用意してきて、待ち構えた。

「どうぞ。」

ちょっと面白くなってきた。謎解きの始まりだ。

「A-20 35705025 1397315332 24 377071966 1398123795 GP 104022035 541790566 BR

これ、正確よ。自信満々だからね。」

紫音がメモした数字を眺めてうなっている。

「うーん、これはなんの暗号なのかな。なんの数字だろう?本当にスパイ映画みたいだな。」

紫音がそのメモを見ながら首をかしげている。

「たぶんね、そのA-20ってのはコインランドリーの洗濯機の識別番号なんじゃないかと思うのよ。そこのコインランドリーにはそんな番号が各洗濯機に振り当てられてるから。でもね、その後はわかんないや。」

モモちゃんはそのメモを見ながら、不思議そうにしている。

僕らもそのメモを見ながら、色々考えを思いめぐらせてみた。


カランカラ~ン♪

「いらっしゃいませ~。あ、堀田さん久しぶりですね。今日は岸くんも一緒なんだ。」

入り口が開いて二人の客が入ってきた。

二人とも、KINGの常連で二人とも刑事だ。

40代後半のちょっとくたびれた感じのベテラン刑事が堀田一馬。

そして、僕たちと同年代の20代後半の男が岸悠馬。二人は捜査一課でバディを組んでいる。

堀田さんは何かと、岸くんと紫音を気にかけているらしく、よく岸くんと二人で来店する。どうやら過去に紫音と堀田さんは何かあったらしい。僕はPRINCEのオーナー横田さんからそんな話をちらっと聞いていた。


「おう、久しぶりだな。みんな頭突き合わせて、何してんだ?」

堀田さんがカウンターにつくなり僕に聞いてきた。

「モモちゃんが、今朝コインランドリーで男が電話してるのを盗み聞きしたらしいんですよ。」

「ちょっと迅君、盗み聞きはひどいじゃないの。聞こえてきたんだから!」

モモちゃんがむくれて僕の腕をつねる。

「あ、いたた。ごめんごめん。言い過ぎた。怒んないで。

で、その男が話してた内容が、これなんですけど、なんか暗号みたいでしょ?」

数字を書いた紙を堀田さんのほうに差し出すと、堀田さんはそれを見て首をかしげた。

「何を意味しているのか分からんな。岸、おまえはわかるか?」

「まったくわかんないっす。暗号…ですかね?」

岸くんはその紙をひっくり返したり、下から透かして見たりしたが、諦めて僕に返してきた。


「ところで、今日はお仕事上がりなんですか?ご注文、何にしましょ?」

紫音が堀田さんと岸くんにおしぼりを差し出した。

「とりあえず、ビールくれ。

最近帰れてなかったから今夜は一度帰宅をしようということになったんだ。まだ、事件を抱えてはいるんだが、行き詰っててな。」

「あ、俺はノンアルコールビールで。堀田さんを送っていかないといけないんでね。

おやっさん、一杯だけですよ。でないと由紀さんに俺が怒られます。」

「岸くんはノンアルで堀田さんはビールね。かしこまりました。」

紫音がそういうと、二人の前にグラスとビール瓶が置かれた。


「ねぇねぇ、あたし、思いついちゃった。昔あったじゃない。えっと、ポケベル!!あのポケベルに送る文章を数字で作ったじゃない!アレじゃないの?」

ウイスキーを飲んでいたママが突然、興奮したように言った。

「やぁだぁ、ポケベル?ママ、紫音君たちの世代じゃポケベルの変換なんてわかんないんじゃないの?大体この子たちまだ産まれてないわよ。ねぇ。」

だいぶ出来上がっているモモちゃんが赤ら顔でけらけら笑っている。

「産まれてるか産まれてないかなんて関係ないじゃない。この際。この暗号を解くためなんだから。」

ママは少しむくれたような顔をした。

確かに僕らはポケベルを使ったことはない。テレビや雑誌なんかでたまに出てきて、ちょっと昔の通信手段だったんだってことぐらいの知識だ。ただ、数字を組み合わせて五十音順に当てはめて文章を作っていたっていうのは、知っている。

紫音もたぶんそれぐらいの知識だろう。

「モモちゃん、知ってるよ。携帯電話が普及する前に流行ったんでしょ?本来、着信しか残せなかったのが、メッセージとかも送れるようになったんで、簡単なメールみたいな機能を持っていたんだよね。

ポケベル変換って、確か、50音の変換表があると思うんだけど、ネットに載ってるんじゃないの?迅、スマホで見れるかな。」

「ん。ちょっと待ってな。えっと…」

僕は自分のスマホで検索をかけて、ポケベルの変換表を出してみた。


「うーん、これで変換していくと、35705025は ぬ、7、゜、に …。ちょっと違うんじゃないかな。あんまり意味を持たない言葉になるよ。縦読みとかするにしてもちょっと違うかなぁ。」

ママは残念そうに項垂れている。

「えー、いい考えだと思ったんだけどなぁ。違うのねぇ。

やっぱり、私みたいな年季の入った脳みそにはわからないわよぉ。」

ママは、頭を抱えてカウンターに突っ伏した。

そう簡単に解読なんてのは、難しいのかな。

「ただ、数列を並べただけなんじゃないのぉ。例えば株のトレードとかでなんかの金額とか?私も株なんかはわかんないんだけどねぇ」

ママは、少し飽きてきたのかあきらめムードに入ってしまった。

次に、アイデアを出したのはモモちゃんだった。

「そうだ。書籍暗号ってのはどうかしら?最近本で読んだんだけど、暗号を読む人と解読する人が同じ本を持っていて、ページ数、行数、文字の場所って感じで数字で文章を作っていくの。」

今度は、黙って考えに耽っていたモモちゃんが提案した。

「書籍暗号か。あるかもしれない。でも、それは少し難しくない?本って版によって中身の内容が若干変わるし。ページ数とかはずれちゃうんだよ。

もし、書籍暗号なら解読するのは不可能に近いね。基準の本が必要になるし、この暗号に関しては、その本が重要になってくるから。

そもそも、その人、本とか持ってたの?」

「持ってなかった。でもあれって聖書とかでやるんじゃないの?」

「聖書かぁ、一応ここにもあるんだけど、聖書も版によってはページ数もずれてくると思うよ。」

そういえば、紫音はクリスチャンだったっけ。

「やってみる?」

「A-20一度置いといて35705025でしょ?357ページの5行目の…なんかやっぱり違うね。文章にも言葉にもしにくいよ。」

と僕が言うと、モモちゃんも

「やっぱりこの数列、あんまり意味がないんじゃない?宝くじの番号とかそんなんだったりして。」

少し諦めモードに入ってしまった。


みんなが少し飽きた様子で、ほかの話題に行こうとしている中、僕はもう一度その数列を眺めていたら、閃いた。そうだ、これだ。

「ちょっと待って、これってもしかして…?緯度と経度なんじゃないかな。」

そうだ、二つ目の139813636これは東京都のどこかの経度なんじゃないだろうか。確か東京都は東経139度だったはず。だとしたら!

僕はPCを引き寄せて立ち上げた。

「この数字を、ここで区切るでしょ。で、グーグルマップの検索バーに入れてっと。

ほら、出てきた。二つ目の数列と、三つ目の数列はモモちゃんが通ってるコインランドリーだね。24はなんだろう?時間?

とりあえず、これは後で考えて、次と次の数列を入れて…ん?これって隣町の宝石店?『grand pureja』だね。あ、だからGPか。」

「宝石店だと?」

隣で岸くんと呑んでいた堀田さんがこっちを向いて言った。

「ええ、隣の街の宝石店ですね。堀田さん、何か気になることあるんですか?」

堀田さんにPCの画面を見せた。すると、堀田さんは少し怖い顔で頷きながら、

「うん。最近、宝石店への連続強盗が発生しててな。俺たちが抱えてる事件がそれなんだが、犯人たちの足取りや盗まれた宝石のその後とかもつかめてなくて行き詰ってたんだ。それで気になったんだが。」

「なんか事件の匂いがしてきたんじゃない?」

ちょっと飽きてウトウトしていたはずのモモちゃんも、少し身を乗り出してきた。

「え?じゃぁ、この24とかってなんだろ?時間かな?」

「そういえば、ここのコインランドリーは24時に管理会社が見回りに来るのよ。その時に洗濯機に入ってる洗濯ものは取り出されるの。その時間の事かしら?」

その時、岸の電話がなった。

「はい、、、はい。え?なんですって?わかりました。すぐ向かいます。

おやっさん、大変です。また宝石店が強盗に入られたそうです。場所は、今迅がグーグルマップで出した宝石店です。」

「なんだって?おい、岸すぐ向かうぞ。」

「はい。」

あわただしく席を立って行こうとする堀田さんたちを、紫音が止めた。

「堀田さん、もうちょっと待って。この暗号、もう少し解読しましょう。A-20~24までがコインランドリーの事で、その後が、宝石店。

24時に管理会社が入る。とすると・・・

今が、23時45分。この宝石店からなら車やバイクで移動したとして大体30分強。24時過ぎにはこのコインランドリーにつく。

点検が終わった後に、宝石を洗濯機に隠して・・・

堀田さん、宝石店じゃなくて、コインランドリーに向かったほうがいい。」

「え?なんで?」岸くんが意味が解らないという顔をしている。

「たぶん、実行犯はその盗んだ宝石をコインランドリーの洗濯機の中に一度隠してるんだよ。一応ロックがかかるし。で、そのコインランドリーに指示役が回収に行くんだろう。そのコインランドリーをはっていれば、きっと犯人が現れる。今なら実行犯も、指示役も捕まえられるかもしれない。」

「そうか、だから盗品のその後がなかなかつかめなかったんだ。

おい、そのコインランドリーって、何処のコインランドリーだ?」

「神保町の大正屋っていう銭湯の横のコインランドリーよ。」

モモちゃんが堀田さんに答えた。

「わかった、ありがとう。よし、岸行くぞ。」

「はい、おやっさん。」


「すごいじゃない、迅君。これで犯人が捕まったら、お手柄よ!感謝状ものよぉ。すごぉい!!」

モモちゃんとママが口々に褒めてくれた。

僕もちょっと誇らしげだったが、感謝状は別にいらないなぁと思た。目立つのは苦手だ。

「で、この最後の数列はどこなんだ?」

紫音が聞いてきた。

「うん、海外だね。ブラジルかな?の座標になる。たぶん、盗品の宝石の売り先なんだろうね。で、このBRは…なんだろ?」

「まぁなんにしても、犯人が捕まるといいな。連続強盗だったんだろ?これで事件解決なら、本当に迅のお手柄だ。」


次の日、岸くんから僕に電話がかかってきた。

「迅、今いいか?」

「ん?どうした?」

「迅、お前の推理どうり宝石強盗が、コインランドリーに宝石を持ってきたよ。そいつは闇バイトで雇われた未成年だった。で、その宝石を回収に来た指示役も逮捕することができた。

どうやら、ネットで闇バイトを募集して、宝石店強盗をして海外に流していたらしい。都内でも何軒も被害が出ていて、尻尾もつかめずにいたから助かったよ。ありがとう。

あ、感謝状出るって言ってるけど、どうする?」

「感謝状はいらないよ。断って。岸くんが焼肉おごってくれたらそれでいい。」

「うーん、それについては、おやっさんに相談するわ。じゃ、また連絡する。」

「うん、わざわざありがとね。」

岸くんの財布は相変わらずひもが固いなぁ。

でも、後日紫音と僕とママとモモちゃんは、しっかり堀田さんと岸くんに焼肉をおごってもらった。





※ この作品はフィクションです。作中の座標は架空のもので、実際の場所とは関係ありません。










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