第36話 遭遇戦
男の背後、廃屋の向こうで木々が吹き飛んだ。ルクスの爆発。
これほどの力。現れたのは、やはりおまえだろう。
ラミエル。
叩きつけてくルクスと妖気に、囲んでいた男たちの膝が崩れ、同時に隆也は地を蹴った。
吹き飛ばされた木々の中、舞い上がる三つの人影が見える。
少年と少女、そして男。森で会った三人だ。
男の背後に、もう一つの黒い影が浮かぶ。
おまえだけは、許さない。頭が白く焼かれるようだ。
彼らが地に降り、廃屋の裏に消える。
僅かに遅れて廃屋を吹き飛ばして現れたのは、黒い影。
あの三人は――。大きく引いた刀から細く白い線が伸びる。光りではなく、光りの線。
何を意味する線かは、考えるまでもない。
距離はまだ二十メートルはある。あるが、こいつにその距離は関係ない。
鋭く振る刀は、蒼いルクスの光を瞬かせて弾かれた。
すぐ眼前に、黒いフード。見えた瞬間、胸に重い衝撃。速すぎる。
地面に叩きつけられながらも片手を付き、両足で吹き飛ばされた勢いを殺しながら立ち上がった。
胸の衝撃は防具の上から殴られただけ、胸当てにヒビは入ったようだが。身体には関係ない。
ラミエルは――。その視界が赤く染まった。
両断された男たちが、霧のように血を噴き上げて舞った。
その奥に黒い影、そこか。
再び地を駆けた。
同時に幾条もの白い線。
「斬る」想いを込めて刀を走らせる。
両腕を殴られたような衝撃で刀が弾かれた。それでもそのまま踏み込み、弾かれた勢いを乗せて刀を回す。
その刃先が届く前に、今度は肩口を衝撃が貫き、背中を強く打ちすえられた。
吹き飛ばされ、息も出来ない。
まだだ。身体を起こす。
目の前には木材が散乱し、砕けた車輪が転がっている。
何をされたかは理解できないが、馬車に叩きつけられたことは分った。
その目の隅で、鞭を持った腕が斬り飛ばされる。
前にいた野盗たちは一瞬にして分断された。
同時に、左下から跳ね上がる光。このままやられてたまるか。刀を光に向けた。
ルクスの光をかき消すように火花が散り、浮き上がった身体が再び叩きつけられる。
身体を護るはずのルクスは、簡単に破られる。まるで、紙装甲じゃないか
辛うじて打ち付けられる背中の痛みは抑えられているが、このままでは勝てる気がしない。
瞬きした途端に、目の前に剣。そしてそれが見えた瞬間、巨大な影が視界を塞いだ。
転がりながら避ける隆也の目の前に、鈍い音を上げて落ちるものがある。
ダエントの頭。いや、妖獣となったダエントの頭だ。
その目は血走り、崩れた皮膚が赤黒い血管を露出させ、異臭を放っている。
いつの間に集まったのか、何十頭もの妖獣が群れをなして駆け寄っていた。それらは一様に、ラミエルに向かっている。
しかし、その中の一頭に目が留まった。
口に咥えているのは、幼い子供。人形のように力なく寄れている。
馬車にいたあの子供か。
反射的に身体が動いた。
走る妖獣に向かって、ぶつかるように大きく踏み込み、刀を横薙ぎに払う。
腕に鈍く重い衝撃。そのまま身体を押し込むようにして刀を振りきった。
両断した妖獣の噴き上げる血が、身体を濡らす。
斬れた。
あれだけ硬かった毛と皮を断ち切れた。
これが、ルクス。
子供を救いたいという願いと斬るという想い。それが、ルクスの発動条件なのか。
そうだ、子供は――幼い子供は、その身体の大半を失い地面に転がっていた。
呆然とするその目に、白い線が浮かび上がった。何も考えずに身体が動く。
左足を引き、下ろした刀を振り上げる。鋼の打ち合う音。刀に受けた力を逃がしながら、そのまま切っ先を突き出した。
間髪遅れて右肩を衝撃が貫く。斬られた。思うと同時に、身体が打ち据えられ木片と石が周囲に舞った。
咄嗟に身体を動かせない。
顔を上げた先、黒い影を呑み込むように妖獣が妖獣が突っ込んでいった。
時間が出来たのか。
まだ戦えるか。右手は動くか。起き上がると、刀を持ち直す。
このままでは、ラミエルの剣を受けることも出来ない。
ルクスに差があり過ぎるのだ。
どうすれば、あのルクスを受けられるのか。どうすれば、この刃を撃ち込められるのか。
いや、分かり切っていることだ。
必要なのは、ルクス。
ないルクスをどう使うか。どうすれば、おれのルクスで戦えるのか。
ルクスは願いと想い。ならば、想いを集中するしかない。ダエントを両断できたのだ。想いを集中すれば、ラミエルも斬れると信じるしかない。
妖獣の一画が崩れた。
そこから走るのは、黒い影。
同時におれも地を蹴った。
光の線を追って、刀を走らせる。
「斬る」
刃の先端の想いを込めた。わずかに遅れて、ルクスの光が拡散する。
ラミエルの剣に差し込まれた。差し込まれたが、これならば流せるはず。
刀を返して、剣を逸らしながら刀を撃ち込む。
いや。
そのまま後ろに飛んだ。
剣の動きが早すぎる。
胸当てに火花が走り、周囲を照らすようだ。衝撃はすぐに身体を貫いた。
吹き飛ばされた身体は、再び叩きつけられて周囲に木片と黒く焦げた炭が舞う。
まだ、弱いのか。
いや、サラたちでさえも苦戦したのだ。
初めから勝てる見込みはないのかもしれない。それでも、遭遇した以上やるしかなかった。
向こうだって、見逃してくれるわけはないのだ。
立ち上がる目の隅に、殺到していく妖獣が映る。
この間に体勢を整えて、一太刀だけでも入れたい。ここで死ぬことになっても仕方がない。受け入れてやるさ。
思った次の瞬間、周囲が白煙に包まれ出した。
その白煙は濃さを増し、周囲の視界を奪っていく。
どういうことだ。
同時に、手が握られた。
「こっちだ」
声は遅れて聞こえ、この声には、聞き覚えがあった。
白煙で何も見えなくなった中、手はそのまま下に引っ張られる。
崩れるように、おれはその中を落ちた。
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