(4)

 私は「気配を隠す」呪符を、周囲に居たゾンビどもの何匹かに貼り付けた上で発動させていた。

 この「気配を隠す」呪符は効力範囲内の魔力・生命力その他の「力」を効力範囲外から隠す事は出来るが……困った事に「外から中に有るものを隠す」結界そのものの存在は容易に感知されてしまう。

 早い話が「中の音を絶対に外に漏らさない壁。ただし、壁そのものは丸見え」みたいな感じだ。

 そこで、更に、ゾンビに「こだま」の呪符を貼り付けた。自分の声が、その呪符が有る場所から響いているように錯覚させる効力のある呪符だ。

 そして、奴が「声はするが、周囲に気配を隠す結界が有る」ゾンビを間違って狙った隙を突いて、奴を「浄化」属性の魔力が込められた投げナイフで攻撃したはいいが……。

「やれやれ……この多元宇宙マルチバースの創造主サマは……アイデアが枯渇してたと思ってたのに……面白いモノを思い付くな……」

「そ……そこの人……た……たのむ……私を殺してくれ……」

 声の主は……いかにもな「勇者」風の姿をした……手足を仲間の成れの果てらしいゾンビに貪り食われてる最中の男。

 すまん。

 私にだって人の心ぐらい有るが……この手の同じ鋳型テンプレートから大量生産されたありがちな奴は……キャラが薄っぺら過ぎて、生きた人間に思えないんだ。

「やるね……いくつもの世界を滅ぼして、やっと気が合いそうな、あたしの派生体ヴァリアントに巡り会えたよ。でも、残念だけど……」

 私が投げたナイフは奴の手に握られており……そして、その手から煙。

 でも、大したダメージも苦痛も与えていないようだ。

「この程度のマジック・アイテムじゃ、あたしは倒せない」

「やっぱり、そうか……」

「あと、1つ誤解が有るけど……あたしは、あたしの意志と努力でこうなった。多少の偶然や幸運は有ったにせよ、あの阿呆な創造主サマの手柄じゃない」

「なるほどな……」

「おい、そこの人、たのむから……殺して……」

「おい、『私』、そこの勇者様、ウザいから殺していいか?」

「駄目だよ〜、『あたし』、あたし的には、中々楽しいんだよ♪ すご〜く豪華って訳じゃないけど、何故か、たまに食べたくなる料理とか、すご〜い名曲じゃないけど、どう云う訳か、たまに聞きたくなる音楽みたいな感じ」

 フードの中に有るのは……。

 青白い肌。

 顔に浮く青黒い血管。

 血走った目。

 髑髏と見まごう……皮膚の下には肉も脂肪も無さそうな顔立ち。

 そして、全身から放たれる嫌な感じの魔力。

「あ……あたしとした事がボケた事言っちゃた〜、てへぺろでやんす♥『何故か、たまに食べたくなる料理』って、あたし、もう、普通の食事出来なくなってたの忘れてた〜♪」

 その「私」は……どう見てもアンデッドと化していた。

 しかし、これは、馬鹿だと油断させる為の芝居か? それとも、アンデッドになったせいで、人間性そのものが歪んだのか?

 ……自分のボケに、自分でツッコミを入れるとは……。

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