(3)

 その時……周囲の景色が崩れ始める。

 と言っても、雑な造形つくりのダンジョン内の大広間にも、地下世界アンダーダークに有る闘技場にも見える場所だったが……。

 強制異世界転移か……。

 もっとも、この多元宇宙マルチバースの創造主は、私が生まれる前から想像力が枯渇気味で、どこの世界も大して変らないらしいが……。

 とか、馬鹿な事を考えた次の瞬間、考えを改めらざるを得なくなった。

 中々の新機軸だ。一般市民同士が殺し合っている町とは……。

 だが、良く見てみれば……なるほど。

 どうやら、一般市民の中にアンデッド化した奴が出て、そいつらが人間のままの一般市民を襲っているらしい。

 気休め程度にしかならないが、気配を隠す魔法が封じられた呪符を取り出し……。

 いや、待てよ。

 残り枚数を数え……瞬時に決断。呪符を発動させるのをやめる。

 ベルト代りに腰に巻いている伸縮自在の魔法の投げ縄を外し、居酒屋らしい2階建の建物の煙突に向い投げる。

 そして、瞬時に長さを縮め、屋根の上に移動。

 屋根づたいに、騷ぎの震源地を探す。

 人口密度ならぬゾンビ密度が多い方向に当りを付け、屋根から屋根へと、その方向に向う。

 辿り着いたのは……王宮か領主の館らしい建物の前に有る広場。

 流石に、ここには、身を隠せるような場所は無さそうだ。

「ざぁ〜こ、ざぁ〜こ、ざぁ〜こ」

 また私の派生体ヴァリアントと殺し合いか……。

 うんざりした気分になってる中、聞こえてきたのは、私の派生体ヴァリアントの決め台詞から、少しばかりズレた代物だった。

「ねえ、、勇者御一行様? あんた達は、なんだよ♥」

 私は「気配を隠す」呪符と、もう1種類の呪符を発動させながら……違和感を感じていた。

 ありがちな私の派生体ヴァリアントにしては……露出度が少ない。

 黒いフード付のマント。黒い長手袋。黒いストッキングに黒いブーツ。

 完全に黒一色と言う訳ではなく、所々に可愛さアピールらしいヒラヒラやら、ピンク色の線や模様が入ってはいるが……。

「ずいぶん細い手足だな。最近は拒食症の奴が流行はやりなのか?」

「また、雑魚か。それで気配を消してるつもり?」

 そいつの手からは穢れきった臭気さえ感じそうな魔力の奔流。

 その魔力流が、を破壊した瞬間……。

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