(2)

「この、卑怯者がぁ〜ッ‼ それでも、あたしの派生体ヴァリアントかぁ〜ッ……なんてね」

 別の私が、そう言った瞬間、炎の矢が放たれた。

 もっとも「炎の矢」と言っても、ちょっとした柱ぐらいの太さと長さのモノを矢と呼べればだが……。

「あ……あ……あ……」

「残念だな。他の『私』の中では一番気が合いそうだったのに……」

 炎の矢は外れていた。

 そして、奴は……片目に手を当てている。

 奴が炎の矢を放つ、更に一瞬前、私が放った吹き矢が奴の目に命中していたのだ。

 人間には利き手が有るように……利き目もまた存在している。利き目では無い方の目でモノを見ると、ほんの少しだが両目で見た状態よりもモノがズレて見える。

 奴が私の派生体ヴァリアントとやらなら利き目も同じ可能性が高い……その賭けに勝ったようだ。

「うわあああッ‼」

 奴は、怒りの咆哮と共に、攻撃魔法を乱射。

 だが、惜しい所で外れる。

 しかし、何かがおかしい。

 一発目の炎の矢より、明らかに威力が低い。

 私が奴の立場なら……これらは全てフェイントだ。油断した所に「本命」が来る。

 私は、腰のポーチから次の武器を取り出し……。

「死ねえッ‼ ざぁこぉ〜ッ‼」

 私が奴の懐まで近付いた瞬間、奴は、そう叫んだ。

 だが、同時に、私の仲間が作った呪符が発動。

「え……?」

 奴の口は、そう言いたげな形になった。

 だが、声を出す事は出来ない。

 奴の気道を私のナイフが斬り裂いていた。

 そして……奴の放った即死魔法は……。

 攻撃魔法は、目視により相手を狙うタイプと、相手の気配で狙いを付けるタイプに大きく分かれる。

 そして、奴が最期に放った即死魔法は後者のタイプ。

 だが、肝心の即死魔法は……私ではなく、私のモノを模した気配を放つ呪符の方に命中していた。

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