(2)
「馬鹿は、どっちよ。あたしの世界と同じなら、その先は……崖」
「だから、何か変だよ。また罠の可能性が……」
「大丈夫、今までのはマグレだよ。だって、あいつは、いくら
私は、奴らを崖スレスレで待ち受けていた。
少しでも下がれば崖から転落。下は急流の川だが……この高さでは水に落ちても助からないだろう。
絵に描いたような「背水の陣」だが、あいにくと別働隊などは居ない。
「今度こそ……ライトニング……」
生き残り2人の片方が、そう言い終える前に……。
「えっ?」
私は、もう片方に投げ縄を投げる。そして、投げ縄の片端を持ったまま、崖から飛び降りる。
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ……助け……落ちるぅ〜ッ‼ いだい、いだい、いだい、うぎゃ〜ッ‼」
「ちょ……ちょっと待って……お……重い……」
奴らの片方は……崖から落ちる私に引っ張られていたもう片方を支えてくれたようだ。
私はロープをつたって、崖の上に戻る。
「ありがとう。君達は英雄だ。やっぱり、英雄とは悪者を虐殺する者ではなくて、人命救助を行なう者の事だな」
「ふ……ふざけんな、この極悪人がッ‼ 今度こそ……ライトニング……」
2名の阿呆の内、より阿呆な方がそれっぽいポーズを取りながら、私に罵声を浴びせるが……。
魔法の理屈からして、こんなポーズ取らなくても、効果は発動する筈なのに、何で、どいつもこいつも格好付けたがるのだろうか?
身を低くして、地面を思いっ切り蹴り、地面スレスレにより阿呆な方に向かって突進。
「あ……」
地面スレスレの状態の私の体を強力な攻撃魔法で消し去る事も可能だろう。
だが、その余波で、崖まで崩れたら、どうなるか?
良かった。阿呆は阿呆でも、私の予想より酷い阿呆では無くて。
想定外のズンドコ級の阿呆の方が、そこそこ程度の阿呆より対処が困難だが、今の所、私はツキを使い果してないらしい。
そして、左半身を引いて、右手を前に向けていた奴の
ザクリ……。
奴の
「で、あと何回『今度こそ……ライトニングなんたら』と叫ぶつもりだ、マヌケ?」
「ふざけんな……こんな傷……え……えっ……ヒーリング……ヒーリング……あ……」
「あ〜、この短剣で付けられた傷には……治癒魔法を阻害する呪いがかかる。完全に効かなくなる訳じゃないが、効果は通常の十分の一まで落ちる」
「だ……だとしても……この程度の傷……」
「その程度の傷にしては、出血量が多いとは思わんか? 太い動脈を断ち切ってる。早く止血しないと、出血多量で、あの世行きだぞ」
「そ……そ……そ……その呪いの解呪方法は?」
「教えてやってもいいが、代りに、教えろ。何故、私を狙う?」
「そ……それは……その……」
「早く言え。言わないと、さっき死んだ別の阿呆と仲良く一緒に地獄で
「あんたが……暴走してるからよ……」
「暴走?」
いや、たしかに人に怨まれる事は散々やってきたが……それでも、私が殺してきた奴の数は、戦争や天災で出る死人に比べれば、誤差みたいなモノの筈だ。
「だ……だから……えっと……この
「つまり……お前たちは……別世界版の私で……私に顔がそっくりなのは、そのせいか?」
「そ……そう。でも……あんただけが、神様の……単なる『神聖魔法の
「あ〜、つまり、その神様が……私を失敗作と見做して、私を消す為に、他の世界版の私を送り込んだ訳か……」
「そう……だ……だから……」
「この短剣を見付けたのは、ここの崖の途中に入口が有る洞窟の一番奥だ。そこの壁に取説が彫られてた。解呪方法らしいのも含めてな」
「本当?」
「嘘は言ってない」
「
阿呆は、そう言って、崖から飛び降りた。
「ああ……そうだ……」
私は投げ縄で縛られてる方の阿呆に顔を向けて、そう言った。
「な……なに……?」
「あいつが、ギリギリで間に合う可能性は結構有る。解呪も出来るかも知れないな。そして、私は嘘は言ってない。ただ、あの阿呆が気付いてないであろう事が1つ有る。お前が教えてやれ、大声でな」
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