第11話

「この体は、一人の娘を亡くしたばかりの人間の男性個体でした」


 旦那が『ドウナシ』であるということは、旦那は知的生命体の誰かに寄生した過去がある、ということだ。


「なにを言うかと思えば。なんだ、神経細胞を食うついでに、その男の家族愛にでも感動したか? 下等生物が」


「そうですね、まとめてしまえば、どうなります。

しかし、通常神経細胞を食らったとしてもしょせん『ドウナシ』は『ドウナシ』。知的生命体には成り得ません。であるにも関わらず、私がこうして営みを続けられる理由は二つ。

ひとつは、宿主しゅくしゅである男性の免疫が寄生に拮抗し、脳細胞が守られたこと。

ふたつめは、生き残った脳細胞、そこから発せられる感情と、現実が理解しがたかったことです」

 免疫機能に反抗され、中途半端に寄生した『ドウナシ』。

 『ドウナシ』に寄生され、中途半端に生存した人間。

 両者は、結果的に侵略することも排除することもできず、中途半端に共生することになってしまった。

 そして寄生生物と宿主の衝突による、いびつな共生環境は結果、新たな人格を生み出すこととなった。

「私は『ドウナシ』でも人間でもない、そしてどちらでもある、そのような人格となってしまいました。そして、理解しがたい現実を知りました」


「この宿主の娘、彼女は、エイリアンだったのです。

人間が、血のつながらないエイリアンを養子にし、本当の娘のように育て、亡くし、涙を流していた。

子孫遺伝子存続のための愛護の感情を、いうなれば親心、『父性』を、まったくの他人に向けていた。

私はこれを、進化の果て、感情を獲得した知的生命体が行うこれを、これがいったいなんなのかを、知りたいと思ったのです」


「あなたも」

 旦那は手で指す。

「あなたも同じではありませんか? 『ドウナシ』同胞

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