第10話

「感情とは進化の過程で生まれた、すばらしい機能です」

 旦那は手を擦り合わせ、喜びの感情を表す。

「知的生命体が獲得した感情という機能。恐怖は危険から遠ざけ、好意は生殖につながる。感情が行動の取捨選択を助けるのです。そしてなかでも――」


「なかでも、愛情は、遺伝子子孫という自己の存続に重要な役割を果たした」


「黙れ!」

 リーダー格の男は怒りに唾を散らした。

「お前のような怪物に、人間の感情を語れるものか!」


「もちろん。私は感情、人間の心、その全てを知っているなど思ってはいません。

いえ、だからこそ私は、感情という心を知りたいがために、リリと家族になったのです」


 エイリアンとの共生それは混沌を生み、その混沌の中には当然無秩序が存在する。

 その無法地帯の中では、人身売買、奴隷も存在してしまっていた。

 リリ、そう名付けられるまえの少女は、奴隷として生まれてきた。

 奴隷は過酷な環境、危険な場所での労働にうってつけ。身体を失う奴隷は珍しくない。

 彼女も過酷な環境での事故により、四肢を失った。

 動けない奴隷に価値はない。廃棄を待つだけだった彼女を、抱きとめたのは、青いカーネーションの旦那だった。


「笑わせるな! 所詮怪物による家族の真似事だ!」


「ええ、真似事です。しかし、真似事をするほどの、が私にはありました。あなたと同じように――」

 『あなた』と旦那は呼びかける。それは、赤いカーネーションに対して。

「私も、寄生と共に、知ったのですよ。人間の感情を」

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