第7話

 現在はなんやかんやで人類とエイリアンが共生している地球であるが、終始平和であったわけではない。

 多種多様なエイリアンの中には平和主義もいれば、侵略を目論むものもいた。

 特に、寄生という生活環をもったエイリアンは現在でも侵略者の筆頭だ。


 そして数ある侵略者の中でも、『ドウナシ』と呼ばれる寄生型エイリアンは、人類、その他エイリアン含めた知的生命体に最も恐れられた寄生生物だった。


「悪名だかき『ドウナシ』が生き残っている以上、我々人類、いや知的生命体に安寧は訪れない。ゆえに我々人類会は、一時ではあるがエイリアンへの憎しみの矛を収め、『ドウナシ』の絶滅を推し進めるつもりだ」

 リーダー格の言葉。


「お待ちください」

 しかし旦那は、静かに手を挙げた。銃口が集中するが、おびえることはない。

「私は確かに『ドウナシ』と呼称された種です。しかし現在は、その寄生能力と繁殖能力を手放し他種属の生活を決して脅かさないことを誓っております。この青色がその証明です」


「なんとでも言え」

 旦那の訴えに、しかしリーダー格は切り捨てる。

「擬態し、宿主しゅくしゅを油断させる手口は貴様らの十八番だろう」


 『ドウナシ』が恐れられる理由。それはその擬態能力ゆえだ。

 ドウナシは、姿かたちだけではない。塩基配列すら模倣し擬態する。そしていくつもの中間宿主に擬態し、終宿主である知的生命体に近づく。

 その際、最も多く擬態した中間宿主が、カーネーションだった。カーネーションの塩基配列が、ドウナシにとって最も擬態しやすい形だったのだ。

 ゆえに、人類や宿主となるエイリアンは、カーネーションを片端から絶滅させた。そのため現在、野生環境ではカーネーションを見ることは叶わない。

 それほどまでに、『ドウナシ』は恐れられた。


 だが、旦那は他の『ドウナシ』と異なる。

 その寄生能力や繁殖能力を捨て去り、他者に一切の危害を加えないことを宣言していた。

 その証拠に、旦那の頭部は青いカーネーションだ。これは青色を発現する塩基配列と、寄生能力と繁殖能力を発現する塩基配列を組み替えた証拠だった。


 そしてその無害さを、セタガヤの商店街こそが認めている。ゆえに、旦那は花屋を経営することができているのだ。


 だからこそ、隣人である旦那を、商店街のエイリアンたちは殺せるはずがない。

 リーダー格の命令に、エイリアンたちは従うどころか、反抗の色を見せた。


「俺たちを見下してんじゃねえ!」

 先攻したのは酒屋の店主だ。

「花屋の旦那はこの商店街の華だぞ! それを殺すぐらいなら、てめえを殺してやる!」

 賛同するように、魚屋の店主と肉屋の店主もそうだそうだと言っている。

「それに擬態だと?! 旦那はな、娘のリリちゃんを一生懸命立派に育てたんだぞ! それをニセモノ呼ばわりたぁいい度胸してんじゃねえか!」

 他のエイリアンたちもそうだそうだと言っている。


「みなさん……」

 旦那ははわわ、と感動し目頭をおさえた。どこに目があるのか分からないが。


「人類会のリーダー格さん、そういうわけですので、どうかここは穏便におさめませんか?」

「はっ」

 旦那の提案に、しかし人類会のリーダー格は唾を吐き捨てた。

「黙っていれば聞くに堪えない家族ごっこ。しかもエイリアン侵略者が我々と交渉だと?! 身の程をわきまえろ!」

 銃の安全装置が外された。引き金に指がかけられる。

「エイリアンなんぞ、やはり皆殺しが妥当だ!!!!」

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