第8話

 引き金が引かれた。

 響く発砲音。


「おかあさん!」


 射出された鉛玉は、軍用義手によって弾かれた。もう片方の義手に抱かれていた小さな女の子がエイリアンに駆け寄る。


「ちよちゃん……ちよちゃん!」

 両手を広げたエイリアンに人間の女の子は抱き着いた。その手にはラッピングされた赤いカーネーションが握られていた。

 その光景に、人類会の黒服たちは銃口をサッと避ける。このまま引き金を引けば、人間の女の子まで巻き添えにしてしまうからだ。


「てめぇらか……」

 カランと鉛玉が地面に落ちた。軍用義手にはかすり傷もない。

「オレたちの店壊したのてめぇらか!!??」

 義手義足の少女、リリは吠える。

 その声量に、人類会の黒服たちは後ずさりした。


「チッ」

 リーダー格の男は舌打ちする。エイリアンへの憎しみがあろうとしょせんは元々一般市民。人間を巻き込むほどの覚悟はない。

 ならば。

「最低目標は、倒すまでだ!」

 手に持った銃をまっすぐ青いカーネーションへと向ける。

 引かれる引き金。

「ぅおらあッ!!!」

 発砲と同時に、リリの義手はリーダー格の男へと迫っていた。

 リリが立っていた場所から距離はあったはず。しかし、ごつくてデカい義手はロケットパンチがごとく飛び、鉛玉を弾いてリーダー格の男を突き飛ばした。


「しゃぁっ!」

 リリの勝利の雄たけびと共に戻ってくるロケットパンチ。しかしその拳には、べったりと赤い液体が付着していた。

「ぅおっ??!! だっ旦那ぁ!!!」

「大丈夫ですよ」

 怪我させちまった! と泣きつくリリを、旦那は落ち着くように頭を撫でた。

「それは血ではありません。分泌液です」

「え?」

 リリは首をかしげながら、おそるおそるリーダー格の男を見やる。


 そこには、顔面の半分をまるで、いや正しく、赤いカーネーションのように咲かせた男がいた。

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