第4話

『おかあさんへ

 いつも ありがとう

 ちよこより』


 まだ平仮名を学んだばかりの子供の文字はメッセージカードにめいっぱいに敷き詰められていた。

 『ちよこ』という女の子の名前は、きっと何度も練習したのだろう。ほかの文字より上手にかけている。


 ニッチなオッサンを後にし、帰路につく二人。

「そんなに握ってると、枯れちまうぜ」

 メッセージカードを挟み、ラッピングされた赤いカーネーションを握りしめた女の子にリリはいたずらに笑いかけた。

「たいへん!」

 真剣な顔で慌てる女の子に笑い声をあげる。

「たいへんだ。早くママのとこに行かなきゃな。家はどこだ?」

「えっとね、あのたかい塔のねもと」


 指さされたのは傾いた鉄塔。今は送電線も切れてしまった廃鉄塔だ。そう距離はないし、花屋と同じ方向、問題はない。

「よーし、掴まってろよ」

 義足のローラーを回転させたリリ。


 大きな爆音は同時に鳴った。

 そして鉄塔を覆い隠すように黒い煙がもうもうと上がる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る