第2話
60年ほど前に太平洋に隕石が落ち、その隕石がいわゆる
日本は、というと隕石落下による海面上昇で東京の3割は沈み、首都は京都へと巻き戻りした。
荒れ果てた関東圏に復興という名目でエイリアンたちと、あとはなんだかわからない人たちが住み着き、栄えるでもなく衰退するでもなく、なんとなくカオスな文明が続いている。
そして大昔は高級住宅街だった世田谷区は、現在は海が隣接する平凡なセタガヤ街となっている。
少し外を歩けば、頭にアルミホイルを巻いた人類と、グレーだったり緑だったりする多種多様なエイリアンに会える。セタガヤ街はそんな、人とエイリアンがひしめき合う平凡な街だ。
観光地でもないセタガヤで一番楽しめる場所は商店街だろう。
肉や野菜の食料品店から半導体を扱う電気屋まで必要なものは商店街にいけば取り揃えられる。
そして生活必需品だけでなく娯楽用品も。
花屋は、そんな娯楽用品の分類だろう。花を食べるという人あるいはエイリアン以外にとっては。
「あのね、あかいおはながほしいの」
商店街の一画、所狭しと花が並ぶその店に小さな女の子がやってきた。小銭が入っているであろうポシェットを握りしめ、つぶやいた注文。
「赤いお花ぁ?」
店員は抽象的な注文に口をひん曲げる。両肩から伸びる軍用の義手で頭を掻く仕草をした。
「品名は?」
「これなの」
女の子はポシェットから画用紙を取りだす。すこしよれたそれには、赤いクレヨンで花がかかれていた。
だが、店員にはそれが果たしてバラなのかボタンなのか判別がつかない。
「あのね嬢ちゃん。赤い花なんてこの世にごまんとあるよ? オレにこんな絵でわかるもんか」
店員の乱暴な言葉使いに女の子は下をむいた。その態度に店員はばつが悪そうな顔をする。
「えぇ、泣くなよ……あー、その、あー、旦那ぁ!」
黒くてごつい義手をわたわたさせ、店員は早々に見せの奥へ助けを求めた。
「はいはい、リリさんどうしましたか?」
店員、もといリリの呼び声に店先へと現れたのは、長身の男。いや、男と判断できるのは胴体だけで、その頭部は人の頭大の青いカーネーションだった。
「あ!」
旦那と呼ばれた青いカーネーションの異形男を見て、女の子は声を上げた。
それは驚きの声ではない。
「これ! これ!」
女の子はその小さな指で旦那の頭を指す。
「これって、てめえが探してんのは赤い花だろうが」
「うん、ううん、うん」
「どっちだ!」
要領のえない女の子に、リリは吠える。怒鳴り声に女の子は身を縮こめた。
「こらこら、お客様を怒鳴ってはいけませんよ」
旦那はリリの接客態度を優しい声でとがめる。
「おそらく、彼女がお探しなのは赤いカーネーションでしょう」
「カーネーション? んな高級品、うちにゃねぇよ。旦那の頭以外にはな。つーか、こんなちんちくりんに買えるかよ」
「まあまあ、リリさん、私に心当たりがありますよ」
旦那のお節介全開な言葉に、リリは顔面いっぱいに嫌な顔をした。
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