第4話 あちらとこちらでがんばろう

「じゃうちらは奥行くんで。あんたらはそっちの川ね」


 マルカはミッツとターキー、そしてセタに川の方を指さした後、手を振った。


「おい、ちょっと待て。なぜ俺たちが川で、おまえたちが薬草集めなんだ?」


 ミッツが太い眉をひそめ、不服そうに言った。


「だって川に水スライムいるじゃん。

 魔法ぶっぱなしたいなら、川でいいじゃん。

 うちら別に魔法とか使いたいわけじゃないし~

 比較的、薬草集めの方が楽だし~」


「そこだ。問題はそこだ。

 鉱物集めは大変だろう。しかも濡れる。

 さらに言えば3人だけだ。

 そっちは4人でやるだろう、ずるいぞ、マルカっ」


「いいじゃん、ミッツ。

 戦いたい者同士、3人仲良くやんなって。

 うちら4人は戦いたいとは言わなかったんだし~

 じゃ行こう行こう~時間もったいないから。

 あ、依頼終えたらそのままギルドで報告していいから。

 うちらもそうするーじゃぁね」


「おい、こら、待て、マルカ。

 せめてくじ引きだろ。

 てか、アキルスは戦う気満々だったと思うぞ」


「なに言ってるの、ミッツ君。オイラはそんな気はないよ。

 じゃあね」


「おい、アキルス、おまえ卑怯だぞ。

 素振りしてただろっ。おい、こら待て、待て、待てって、裏切り者めーっ」


 ミッツが森の奥へ向かう4人を呼び止めようと必死になっていたが、4人はお構いなしに行ってしまった。

 

「あいつらー、おぼえてろよ…」


 嘆くミッツの肩に手を置いて、ターキーとセタは、まぁまぁとなだめ、ミッツはしぶしぶ諦めて、3人は川へと歩きだした。


「ぁ、素直に行ったみたいだよ」


 振り返ったマルカが川へ向かう3人を確認して、みんなに伝えた。


「まぁあの3人なら問題ないでしょう」


 ウチチは深呼吸して森の空気を楽しんだ。


「マルカ君、あとで怒られるんじゃない?」


「そうかもね。でもいいよ。なんとかなるし。

 むしろアキルスのがいろいろ言われるかもね。

 なんか裏切者とかミッツ叫んでたし」


「それこそ大丈夫だよ。ミッツ君は非力だからね」


「確かに」


 アキルスの言葉に、マルカとスアラは笑った。

 ウチチは口をパクパクしながら森の空気を食べるように楽しんでいた。


 ウチチの行動に3人は慣れているのか、とくに触れることもなく、森の小道を奥へと進んだ。

 そしてしばらくして、西に走る獣道を見つけると、そこへと入っていった。


「ここだよね、この先に草原あるんだよね?」


 マルカが確認すると、ウチチが頷いた。


「はい、ここで間違いないです。この先にメメの草原があります。

 そこに線の細い黄色い花弁の花が咲いてると思いますので、それを集めてください。それが依頼の薬草モロです。モロは眼精疲労に良く効くといわれる薬草で――」


「あーそれいい。ウチチの話し長いから、聞かされてるオイラ頭痛くなる」


「たく、アキルス君は教養とか本当に嫌いですねぇ…ぶつぶつ」


 と、ウチチが愚痴を言うのをなだめながら、マルカがスアラを気にして後ろを振りかえった。


「スアラ君、そのローブ長くない? 裾切るか上げるかしたら?

 ずっとひきずってるじゃん…それじゃ歩みも遅くなるし、転んじゃうよ」


「…大丈夫…慣れてる…問題ない」


「あ、そう…? ならいいけど…気をつけなね、足元」


 マルカは、やれやれという表情で前に向き直った。


 先頭をアキルスが歩き、背の高い草を分けてゆく。

 その後をウチチがついて、道をならしながら進んでゆく。

 そのおかげで、みんなより背のやや低いマルカと、か細いスアラは獣道につまずくことなく通り抜けることができた。


「ここがメメの草原です。

 美の女神ミマトーティの使徒として活躍していた、天使ファーのお気に入りの場所だったのではないかといわれている場所です。

 ちなみに天使ファーは美しく鳴く黄色い小鳥だったのだとか――」


「あ、ありがと、うんちく。また後で聞くから、とりあえず薬草探して摘もう。

 10束ってさ、わりとあるからさ」


 マルカはウチチの話しをさえぎって、袋からみんなの分の草刈り鎌を取りだした。

 そして手際よくそれらを渡すと、「さー頑張ろう~」と掛け声を出した。


「…オイラおなかペコペコだよぉ」

 

 するとアキルスが、へたりと草原に座り込んでしまった。


「ですね。わたくしもそろそろお弁当を食べたいですね。

 スアラ君もそうでしょう?」


 ウチチの問に、スアラもと頷いた。


「ぁ、そうだね。もうそうゆう時間だものね…

 でもさー、これだと時間かかるかもだねぇ…薬草集めが。

 15時には帰りたいんだけどもなぁ…」


 マルカがアキルスの隣りに腰かけて、鞄から人数分のお弁当を渡すと、みんなそれを受け取って、輪になって座った。


 本日のお弁当は、ギルドの食堂でお願いして出してもらったのり弁だ。

 おかずはゆで卵と肉じゃが、それに海苔を敷いたご飯だ。

 トイダラーの街は、近くの村でお米が良く採れるので、パンよりご飯が多く食べられているのだ。


「いただきます」

 

 みんなでお弁当に感謝してから、食べだした。

 肉じゃがの汁が海苔のご飯にまでしみこんで、美味しそうだとマルカは思った。


「これで300Gゴールドは安いよね。ギルドの食堂、儲けあるのかなぁ?」


 マルカがお弁当をしみじみ眺めると、


「あそこは美の女神ミマトーティ神殿のお布施から幾ばくか寄付がされていますので、問題ないかと」


 ウチチはそう言い終えると、ほくほくのじゃがいもを口に放りこみ、幸せそうな顔をした。


「へーそうなの? 知らなかった。

 美の女神ミマトーティの神殿ってさ、冒険者育成学校にも寄付してるんだよね?

 すごい儲かってるんだねぇ…」


「やめてください、マルカ君。そうゆう下世話な言い方は、ミマトーティ様に失礼ですよ。愛を持って寄付してるだけなんですから。

 ちなみに、美しさを求める貴婦人たちの参拝が絶えませんので、儲けています」


 ウチチは、しゅら~といいながら、今度はご飯を頬張り幸せそうな顔をした。


「ぁ、そうなのね…」

 

 マルカは苦笑した。


「あーうまかった~、ごちそうさん。

 ぉ、スアラ君、だいぶ残ってるじゃん、オイラ食べてやろうか?」


 お弁当を一気にかけこんでからになったアキルスが、食の細いスアラのお弁当を指さして、物欲しそうによだれをぬぐった。


 スアラは首を横にぶんぶん振って、それを断った。

 どうやら時間はかかっても、残す気はないようだ。


「ちぇっ、残念。

 そんなペースじゃ日がくれちまうってーの」


「たく、アキルス、いやしすぎっ。

 スアラ君にはスアラ君の食べるペースがあんだからさー

 ほれ、うちの半分あげるから、これでたくさん薬草摘むように、わかった?」


「あ、うん。オイラがんばるよ」


 アキルスはそう誓って、マルカに分けてもらったお弁当を嬉しそうに食べだした。


(…ま、最近太り気味だし、いいか)


 マルカは自分のおなかの肉をつまんで、半分あげたことをひとり納得した。


「ふぅー、うまかった~。

 スアラ君、オイラの弁当箱に白湯を入れてくれよ」


 アキルスが、空の弁当箱をスアラに差し出すと、スアラは食べていた弁当を膝に置き、腰の銀の短杖を抜くと、「…ほい」と、杖を一振りしてお湯を出してあげた。


「これこれ、これが〆じゃないとな。スアラ君が水の魔法得意で良かったよ。あんがとさん」


 そう言いながら、スアラが出した白湯をうまそうに飲み干した。


「ぁ、すみません、わたくしのもお願いします」


 ウチチも空箱をスアラに差し出して、白湯をもらった。


「ごめんねー、スアラ君。ポット代わりに使ったりして」


 マルカが謝ると、スアラは「…問題ない」と、またお弁当を食べだした。


(うちは魔法使いが3人いて、それぞれ得意属性が違ったから、まだ良かったかもなぁ~。偏ったPTだけど、そこはかぶらなくて。

 うちが風とちょこっと土魔法が得意で、ミッツが雷と火だし…で、スアラ君が水。

 そうだ、ウチチは光属性だっけ。

 13属性のうちの6もそろってるもんなぁ。

 あ、そういえばスアラ君って闇魔法勉強し始めたんだっけ?

 ミッツが足止め後衛いないとか言うから気を使ってやりだしたんじゃないかなぁ…目くらまし覚えるために。自分はぶっぱなし魔法しか使う気ないくせに。

 ま、自分も足止めになるようなの覚えてないからなぁ…カッター系と礫だけだもんなぁ…あと空飛ぶくらい…か…

 スアラ君が闇頑張ってるなら、自分も他に勉強しようかなぁ…

 獣約テイマーとか? でも動物との契約はむずかしいからなぁ…

 似たような召喚エレメンタラーもそうだよなぁ…精霊は気まぐれすぎだもの。

 植物とか…蔓の魔法で罠とか…でもなぁ観葉植物すぐ枯らしちゃうタイプだもんなぁ…適正ないだろうなぁ…

 毒とか…んー、うっかり仲間にかけそうだしなぁ…回復がウチチだけじゃ薬代かかりそうだしなぁ。じゃ虹? ――いや、あれはほぼ演芸用だしなぁ…まぁ綺麗、で終わっちゃうし。

 音とかどうかなぁ…今は音楽系として吟遊詩人とか踊り子に人気だもの。で、単純に大きな音で驚かすとかいいかも? でもなぁー魔物も動物系じゃないと音効かないしなぁ…

 て、ことは…ないな。うちが学ぶ属性はもうないな…ははは)


「て、ことでどうでしょう? マルカ君?」


 マルカが物思いにふけっていると、ウチチがマルカの顔の前で丸っこい手を振った。


「わっ、なに? なに?」


 マルカが慌てて、ウチチの顔を見た。

 ちょうど日差しがウチチの丸眼鏡に当たって光り輝いている。


「ですから、マルカ君は空が唯一飛べるのですから、上から黄色い花を見つけて、ここだよー、て指示してください。わたくしたちは、その指示に従って薬草を摘みますから」


「ぁーなるほど。それいいかもね。天才だね、ウチチ君」


 マルカがウチチを褒めると、ウチチは丸眼鏡の光らせたまま、まんざらでもないという態度をとった。


「ウチチ君にしては、上出来じゃん」


「アキルス君、、は余計です」


 ウチチの丸っこい肩にアキルスが手を乗せると、ウチチは「重たいです」と、それを振り落とした。とうのアキルスは、がははと笑った。


「じゃ、それで始めましょ~」


 マルカは食べ終えた空のお弁当を(結局、スアラは残してしまったが)、みんなから回収して鞄にしまうと、やる気満々で立ち上がった。


「じゃこの大鞄はアキルスに渡しとくから、みんな集めたらアキルスに渡してね」


 3人がうなずくのを見届けて、マルカは箒杖にまたがって、ゆっくりと空へと浮かび上がっていった。


(箒にまたがると痛いからなぁ~。ヤヤ先生はお尻に空気のクッションがあるイメージで腰を浮かせて乗りなさいて言ってたけど…イメージできないんだよなぁ。つい、ずぼってお尻に食い込ませちゃうんだよなぁ…。だから10分くらいは我慢するけども…でも、さっさと終わらせないとなぁ。痔になったら嫌だもんねっ)


 マルカは一度、森の木々の上まで上昇してから、薬草が確認できるほどの距離まで、箒杖の高度を静かに下げた。

 メメの草原は森に囲まれた1㎞圏内の広がりだろうか? 

 黄緑色の草の中に、黄色い花がぽつぽつ咲いているのが見えた。

 

「みんなーそこから北北西の森付近に黄色い花の群生があるから、そこへ移動してみて。たぶん、薬草じゃないかなぁ? 花弁が細いかどうかわかんないんだけど、黄色い花だからさ」


 マルカが上空から、待機している3人に声をかけた。


「了解」


 3人は言われた通り、マルカが指さす方向へと歩きだした。


「あーもうスアラ君のろすぎ。オイラが担いで運ぶ方が早いや」


 あたふたするスアラをと軽々と肩に担ぐと、アキルスは元気よく草原を大股で歩きだした。

 それにウチチも続いた。


「さすが怪力男子…やるおる」


 マルカは、アキルスに担がれてばたばたするスアラを見ながら、苦笑した。


 

 

 

 

 

 

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