第3話 結局仲良し巻き込まれ~
セブンズスターキャッツの7人は、トイダラーの街を北へ向かって歩いていた。
依頼の場所が両方とも北の森なのだ。
春の陽気に誘われてなのか、トイダラーの街は旅人でにぎわっていた。
大陸ではさほど大きな街ではないのだが、温泉があるのと、美の女神ミマトーティの信仰が盛んなため、街並みが美しいことで有名なのだ。
温泉には、湯治目的と、美容目的の比較的裕福な貴族層が多く訪れ、長期滞在も珍しくない。しかも海は遠浅なので、常に穏やかで、夏などは海水浴客でにぎわうのだ。
ただ残念なのが平地の狭さで、人の住む場所が限られていた。
ゆえにトイダラーの街は、人気があれど、大きくなることができなかったのだ。
最近は、街を囲む山を少しづつ削って土地を増やすリゾート計画が進んではいるが、岩盤が硬く、思うようにはかどっていないようだ。
しかも美の女神ミマトーティの聖地ということもあって、景観に厳しく、新しい建築物は自然の調和を求められ、最低でも3年の審査を繰り返してからの着工となる。
ゆえに、なかなか新しい家が建たず、外からの旅人は多いが、街の人口はあまり増えていないのだ。
そんな街のメイン通りを7人はのたのたと進んでゆく。
杖を地面につきながら、いまだにリーダーのミッツが「魔法撃ちてぇーのになぁ…」とぶつくさ言っていた。
「わー桜が綺麗だね~。やっぱこの街美しいよねぇ~
ここに生まれて良かったなぁ~」
マルカはミッツの愚痴を聞くまいと、街道沿いに植えられた桜並木を指さして喜んだ。
「わたくしは花より団子ですねぇ~」
ウチチがしみじみそういうと、
「たくっウチチは食い意地ばっかりじゃん」
と、アキルスが返して、スアラが「くくくっ」と笑った。
「4人はいつもそいゆうパターンですね」
セタが呆れ気味に言うと、伸びしながらターキーが、
「ん-、だねぇ~」と返した。
しばし7人は花びら舞う桜街道をそれぞれに堪能しながら歩んだ。
すると、
「あれ? なんかあそこもめてない?」
マルカが北の森へ向かう出入口付近で騒いでいる数人を指さした。
「どれどれ…
――ぁ、男3人とじぃさん二人だなぁ…男3人はよそ者だな」
「おや? ターキー君、あのじぃさんたちって――」
「ぉ、セタ君も気づいた? あれさ、双子の針灸師ジッペとパッペじぃさんだよ」
「て、ことは…。またやつら客引きでもめてんだ…こりねぇじぃさんたちだなぁ」
ミッツが「ふぅー」と深くため息をついた。
「ミッツ、どうする? うちらあそこ通らなきゃならないじゃん…」
「マジめんどくせー。アキルス大声で脅して来いよ」
「いやだよ、リーダーなんだし、ミッツ君が行けよー」
「ばかっ俺が腕力ないの知ってんだろ。
てか、関わりたくねーし」
「オイラだっていやだよー。
あのじぃさんたち、針やたらと刺してくるんだもんっ」
「ぁー確かに…文句言えばすぐだよね…うちも前やられそうになってさ、この箒杖で振り払ったよ」
「じゃ、ここはわたくしが、美の女神ミマトーティの名のもとに説教を解けば――」
「あーだめだめっそれだめだからっ!」
ウチチの申し出にスアラ以外のみんなが手を振って、やる気満々のウチチを止めた。
スアラは「くくくっ」と笑っている。
「ウチチ、余計な事すんなよーぉ。
オイラの聞いた話しだと、あのじぃさんたちの信仰は
「あーうちもそう聞いた。
でもさ、じゃなんでミマトーティの聖地で開業してんだろね?
てかさ、そもそも針灸って医療じゃない? 医療と言えば薬の男神ポヘロ信仰じゃない、普通? なんで商なんだろ…?」
アキルスに同調しつつ、マルカはおかっぱ頭をなでながら、疑問を口にした。
「金好きだからじゃねぇ? 男神ポヘロは貧しくとも生命を助けろが信条だからなぁ――あのがめついじぃさんたちには合わないだろうよ」
「さすがターキー君、物知りですね。
私なんか宗教に疎くて疎くて…この身の剣を誓った戦の男神ザオルの教えすらわかりませんからねぇ…」
「ちょっと、それやばくない、セタ君? 自分の信仰する神様のことくらい興味持とうよ」
「じゃマルカ君はわかてるんですか? 自分の信仰神のこと」
「も、もちろん。
杖の女神マルキアは、攻撃魔法こそ華なりと――」
「だろ? だから俺は攻撃魔法撃ちたいって言ってんだよ」
「えー、待って、そこ? 今、そこに戻るわけ?
ミッツ、もう決めたじゃん、採集クエストなの、今日はその依頼なのっ」
「えーでもなぁ…マルキアが攻撃魔法こそ華なりって言ってるわけだしぃ。
俺ら魔法使いが魔法ぶっぱさないでどうするよ~。なぁ。スアラ君もそう思うだろ?」
「…ボクは…教えとかよく知らない」
久々にしゃべったスアラの声はか細く聞き取りづらいものだが、仲間内では慣れているのか、誰もなにも声の小ささを指摘はしなかった。
「ほらほら、スアラ君も知らないって言ってますよ。
私だけじゃないですよ」
セタ君が、嬉しそうにニッコリと笑った。すると切れ長の一重が一本線のように細くなった。
その顔を見て、マルカは冒険者育成学校時代に陰で言われていたみんなのあだ名を思い出した。
(そういえば…セタ君がキツネで、ウチチ君がタヌキ、ターキーがイタチで、ミッツが長老ザル…ま、これは歳のわりに老けた感じだからかもだけど…あとスアラ君がネズミで、うちがおかっぱネコだったけ…アキルスに関してはさらにひどくてエンジェル猪だったもんなぁ…きっとあの天パのせいだよなぁ…。なにかやらかすたびに、”アニマルズダサ”って陰口されてたっけなぁ…)
マルカは忘れたいと、首を大きく横に振った。
「――で、ターキー君とウチチ君はどうなんですか?」
セタがまだ聞いてなかった二人に質問した。
「ぇ、オレんとこ?
そだなぁ…弓の男神ギィーのモットーは、狩れるときに狩っとけ、かな。
ほら、狩猟の神様さからさ」
「そうですねぇ~、わたくしのところはですねぇ、美こそ究極の癒しであり、愛であり、人を慰めるよりどころであり、はたまた…」
「あーもういいから。長くなるから。
うち、それ散々聞いて飽きてるから。
薬の男神ポヘロが薬剤なら、美の女神ミマトーティは愛の力で治癒する、てやつでしょ。もうン百回聞いてるんで」
マルカがそう言うと、ウチチはちょっとつまらなそうな顔をした。
「セタ君ーっ、なんでウチチには尋ねてっオイラには聞いてくれないんだよぉっ」
デカい体で地団駄を踏んで、アキルスがセタに詰め寄った。
「あーごめん、ごめん。アキルス君はどうせ知らないだろと思ったので」
「ひどいなーっ。
まぁ知らないけども…でもオイラもセタ君と同じ戦の男神ザオルを信仰してんだからさ、冷たくしないでおくれよな」
「私はアキルスとも、ちゃんと仲良くしてるつもりですよ」
「ならいいけど」
「いいんかーい」
マルカがデカい図体につっこみを入れた。
アキルスはわけもなく喜んでいる。
そんな彼をジト目で見つつ、マルカがミッツにどうするのか尋ねた。
「ま、無視が妥当だろう。かかわるとメンドクサイ」
「だね」
みんな一致のようだ。
「…ただ、どうあそこを抜けるかだよなぁ」
「マルカ君は空が飛べるんだし、上から行けば?」
「アキルス、ばか? うちがひとりで行ってどうすんの?
依頼全部こなしてこい、てことっ?」
「あ、ごめん…そうゆうつもりじゃ――」
「まぁまぁアキルスの脳みそは抜けてるんだから、マルカは怒るなって」
「じゃミッツなんかいいアイデアないの?」
「ないな」
「おまえもそうとう抜けてるわっ」
「だからマルカ君、カッカしないで。ウチチ君、マルカ君にリラックスの呪文でもかけてあげてください」
「はい、わかりました。ではわたくしがこの聖書からリラックスするような一説を読み上げましょう」
「あ、いいから。ウチチ君、それ、いいから。
セタ君もウチチ君にふらなくていいから、長くなるから」
マルカは首を振りつつ、肩を落とした。
スアラは「くくくっ」と笑った。
「スアラ君、笑ってばかりいるとその大切な腰の銀の短杖貰っちゃうよ。
それ売れば良い金額になるし」
スアラは腰の杖を抑えて、首を横に振りまくった。
「こら、マルカ。スアラ君をいじめるなよ」
「いじめてないしー。てか、ミッツ、マジでどうするの?
あの人たちますますもめだしてない?」
見ると、3人の旅人と双子の針灸師のじぃさんたちが、激しく押問答していた。
「あのじぃさんたち、絶対に無理やり店に押し込もうとしてんなぁ…」
「ならさ、ターキー君が
「アキルス、頭いいな。たまに賢いこと言うなぁ」
ミッツは、その案にノリノリだ。
「えーそれかわいそうじゃない? あの人たちぼったくられちゃうよ」
「じゃマルカほかに良い案あるか?」
「ないけど…声かけるとからまれるし…」
「じゃ、仕方ないですよね。私もアキルス君の案に賛成です」
「セタ君まで…」
「じゃ多数決な。
俺はアキルスの案に乗る。ターキー君ならうまくやってくれる確信があるからな。
他のみんなは? 賛成なら挙手ね」
ミッツの質問に、セタとアキルスは「賛成」と、まっさきに手をあげた。
ウチチはしばし考えてから「仕方ないですね」と手をあげた。
ターキーも「しゃーないか。オレがやるしかないか」と手をあげた。
「えーそれでいいの? スアラ君は反対だよね?」
とマルカが隣りにいるスアラを見ると、しっかりと手をあげていた。
「はい、決まり~。
じゃ、ごめん、ターキー君、お願いできるかな?」
「任せといて。でもまだ2分しかもたないから、さっさとやらなきゃだな」
ミッツにそう言ってから、ターキーは走りながら
「みごとですねー。もうターキー君がどこにいるか、わかりませんね」
ウチチは丸眼鏡をずり上げながら、ターキーの消えた先を見た。
「うむ。みごとなもんだ」
ミッツが頷くと、
「だけど、2分は短いよなぁー」と、アキルスがつぶやいた。
「まぁターキー君は行動が素早いですから、問題ないでしょう」
セタはご自慢の髪をかき上げながら、目の前の様子をうかがっている。
スアラは目つきの悪い顔を、さらに細めて悪くして、遠くを見ていた。
「ちょっと、スアラ君、目つき、目つき。
目が悪いなら、眼鏡かけなよー。ちゃんと見えてないんでしょ?」
「…大丈夫…問題ない…感覚でわかる」
指摘するマルカに、スアラはか細い声でそう答えた。
すると、前方で「うわっなんだっなんだっ」「まいど~いらっしゃいな」と聞こえてきた。
旅人3人が双子の針灸師の店に次々放り込まれるように入っていき、じぃさんたちが歓喜の声をあげていた。
「よし、成功。じゃ進むぞ」
ターキーの仕業を待っていたミッツが、その様子を確認してから、北の森の出入り口へそそくさと歩み出した。
「本当にあれでよかったのかなぁ…」
マルカもぶつぶつ言いながら、その後に続いた。
他のみんなも足早だ。
そして一足先に出入り口で待っていたターキーがみんなに手をあげて「任務完了」、と笑った。白く嫌いな歯が褐色の肌に映えて、イケメンに見えた。
一仕事終えた男の余裕の顔だ。
「で、今日はどうゆうことでもめてたわけ?」
マルカがターキーに尋ねると、
「針灸30分1万Gだってよ」
「なにそれ、相場の約3倍じゃん…そりゃもめるわな…」
マルカが呆れていると、
「ま、やつら運が悪かったな」
と、ミッツがさらりと言った。
午前11時過ぎ、海からの暖かな春風が美しいトイダラーの街を駆け抜け、咲き誇る桜を舞い散らせていった。
「針灸なんかしたくないんだよっ!!」という叫び声が聞こえたが、セブンズスターキャッツの仲間は何事もなかったかのように、ゆうゆうと、森へと入っていった。
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