第2話 でかけましょ~そうしましょ

 とっとと依頼をこなしたいのだが、ウチチがお茶を全部飲み切るまでは席を動きたくないと言うので、しばしみんなは彼を待った。


 唯一の回復役なので、わりとみんなはウチチに甘いのだ。


「すみません、おまたせいたしました。では参りましょう」


 丸顔丸眼鏡で小太りなウチチは「よっこらしょ」とゆっくり席を立ちあがった。


「おまえ、遅すぎ。茶なんか一気に飲んじゃえよ」


 図体のデカい金髪天然パーマのアキルスが、ウチチにお茶を豪快に飲む素振りを見せながら言った。


「わたくしはあなたのように野蛮ではないので、あくまで上品にお茶をいただくんですよ」


「どこが上品だよ。おまえ風呂ギライで髪もちゃんと洗わないくせに。

 美の女神の神官とか、笑えるな。ほら、肩にフケあるぞ」


 アキルスがウチチの丸い肩をなでてフケを払った。

 ウチチはちょっと不機嫌だ。


「あーもー、いいから、そうゆうのいいから。

 さっさと行こうよ。お昼になっちゃうじゃん。

 せっかくお弁当買ったのに、ここで食べたら意味ないよ」


 マルカがウチチの背中を押してギルドの出入り口へと向かった。

 その後に洗いっぱなしの長い黒髪をゆさゆささせて、細っこい、目つきが悪い顔のスアラが「くくくっ」と笑いながら続いた。


「アキルス、いくら友だちでも、そうゆうことは言うもんじゃないぞ。

 おまえだって体臭キツい時がたまにあんだからな」


 黒髪短髪ぼさぼさで眉毛が太いミッツは、デカいアキルスの肩に自分の堅杖をぽんと乗せて、諭すように言うと、出入り口へと歩きだした。


「そうそう、他人ひとのことはあまし言うなって」

「さ、行きましょう、アキルス君」


 茶髪短髪の褐色男子ターキーと金髪ロン毛の一重涼やか男子セタがアキルスの背中をそれぞれ軽く叩いて、みんなの後に続いた。


「オイラ…匂いか?」


 アキルスは自分の脇を嗅いで確認している。


「もう、アキルスっ、一緒のPTなんだから、早くしてっ」


 ギルドの出入り口から、マルカが突っ立ったままのアキルスを大声で呼んだ。


「じゃないと先に行くからねっ」


「あ、待ってよーマルカ君ーっ」


 どうやらアキルスはマルカには弱いようだ。


「じゃみんな、いってらっしゃい。

 気をつけてね」


 ギルドを出てゆくセブンズスターキャッツの面々に、アノアさんがカウンターで手を振った。


「じゃ帰ってきたら、アノアさん、今晩一緒に飲みましょう、私がおごりますから」


 セタはご自慢のサラサラ金髪一本結びの髪をかき上げながら気取りつつ、アノアに声をかけた。仲間の中では一番のイケメンだ。そして女子好きだ。


 それに便乗して、ターキーも参戦した。


「じゃオレもおごるから一緒に飲みましょうっ年上女子に興味あるんで、アノアさんっ」


 彼もまた女好きだ。顔もまぁまぁ良いし、頭脳も良い。ただし仲間うちでは一番チャラい性格をしていた。


「もうっセタ君、ターキーっ、アノアさん困ってるじゃんっ。

 さっさと行くよっ。

 ごめんねー、アノアさん。あ、ここの草刈り鎌4つ借りるね。あと大鞄も二つ。

 借り賃は報酬から抜いてね――ぁ、セタ君、この鞄はそっちのね、渡しとく。

 3人のお弁当入れときな。こっちはこっちで入れとくから。

 みんなお弁当を鞄に入れて。

 じゃ、アノアさん、また後でね」


 マルカに背中を押されて、二人は名残惜しそうにギルドを後にした。


「やれやれ、マルカ君はお母さんの役もしてるのね…大変だ、こりゃ」


 アノアはカウンターにほほ杖つきながらため息まじりで、みんなを見送った。


 春の日差しは心地よく、空も青く澄んでいる。海辺近くのギルドに潮風が優しく吹き抜けていった。

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