冒険者7人PTでわいわいおー!

マァーヤ

第1話 仲良しギルメン

 ここはジフォン大陸の南に突き出た半島にある、美の女神ミマトーティに愛されし街トイダラー。


 気候も温暖であり、緑豊かで、海は遠浅、温泉が湧き出ており、昔から湯治客や美容目的の貴婦人方が絶えず訪れている観光地だ。


 街の規模は大きくはないが、美の女神ミマトーティの聖地として長年愛されており、ジフォン大陸で一番美しい神殿があることでも有名だ。


 さらにいうならば、建物も独特で美しく、近年はリゾート地としても人気が高った。


 これは、そんなトイダラーの街にある冒険者育成学校を卒業した仲良し7人のちょっとした日常の物語。


~~~

~~~

「で、どの依頼受けるつもりなの?」

 

 青い木造の建物。大きな窓が解放されて清々しい春の風が潮の匂いを運んでくる。  

 ここはトイダラーの街の海辺にある冒険者ギルドだ。時刻は、午前10時頃。

 その奥の食堂で、新米冒険者たちがなにやら相談をしていた。


 やや小柄で黒髪のおかっぱ頭の男子が、少し呆れたふうに、長テーブルに座る6人の男子の顔を見渡した。しかし、みなそれぞれブツブツ言っているだけで、誰も反応しない。


 おかっぱ男子は二重の愛らしい目でみんなを睨みつけながら、「もうっ1時間たってんだけどっ」と、怒った。


「あぁーマルカ、ちょっと待てって。こーゆうのは慎重にだな、決めないとな。

 下手に選んで失敗とかしたくないだろ?」


 黒髪のぼさぼさ頭、眉毛の太い男子が、指であごをなでながら、おかっぱ男子にそう答えた。


「そうそう、マルカ、ミッツ君の言う通りだぜ。今回も失敗したらどうするよ~?」


 短髪で茶髪の褐色肌男子が、ほほ杖をつきながら器用にペンを回しつつ、のんびりと言った。


「またターキーはミッツの肩を持つんだから。いっつもそうだっ」


「まぁまぁマルカ君、ターキー君はリーダーのミッツ君の判断を尊重しようて言ってるんだと思うよ、私は」


 金髪のサラサラの長い髪を後ろで1本結びにした青い瞳の一重男子が、少し気取り気味に言うと、


「そうだよー、セタ君が言うようにさ、ミッツ君がリーダーなんだからさ、なんでもかんでも決めてもらえばいいんだよ」


 と、図体のでかい金髪天然パーマの男子がそれに続いた。


「おい、アキルス、セタ君は別に俺にとは言ってなかったぞ。

 というか、お前は俺に押し付けすぎだ」


 ミッツが真向かいに座るアキルスの頭を、自分の横に立てかけていた堅杖でと叩いた。堅杖はその名の通り堅い樹で出来た長い杖で、物を叩けばコツンコツンとよく響いた。


「――痛っ」


 アキルスは、しかめっ面をした。


「まー今のは、アキルス君が悪いですねぇ~。叩かれて当然かと」


 アキルスの横に座って、ひとりだけ注文したお茶をすする丸顔で小太りな丸眼鏡男子が、涼やかにそう言った。かぶっている水色の縦長帽子がちょっとずり落ちそうだが、気にしてない様子だ。


「ウチチぃー、うっさいっ」


 アキルスが丸眼鏡男子を睨みつけながら、ミッツに小突かれた頭をなでた。

 すると、おかっぱ男子マルカの隣りに存在感なく座っていた、体がひょろっと細い、目つきの悪い男子が「くくくっ」と笑った。

 長く伸ばした黒髪は洗髪もそこそこで、黒の長いローブを纏っている。


『…ちょっと、スアラ君、笑っちゃ悪いって。アキルスあれで気にしぃーなとこあるかもだからさ』


 マルカが隣りの目つきの悪い男子の耳元に手をそえて、ぼそぼそと小声でたしなめた。それでもスアラは、へらへらと笑っている。


(ま、言って直すわけもないか…)


 マルカは、やれやれと肩をすくめた。


「――で、ミッツ、どうする気? 今日お金入んないとさー、借りている学校の授業料とっとと返せないよ? 返済期限って卒業してから3年以内でしょ?

 うちらまだ1/4じゃない? みんな1/3は返したって言ってたよ」

 

 マルカが、テーブルに置いたメモ書きを見つめるミッツに、再度言いよった。


「まぁ、待て。

 そもそも依頼の金額が低いのばっかなんだよ。

 こんな小さな街じゃデカい金額なんかでやしない。しかも1PTひとぱーてぃー、1日一依頼と決まっている。

 なら7人で稼げるもっとも良い依頼をだな…」


「じゃオイラたち二手に分かれればいいじゃんか」


「おいおい、アキルス。みんなで卒業してPT組んだ時に決めただろ。

 オレら後衛ばかり多いから、二つに分かれるとバランス取りにくい、て」


「そうだよ、アキルス君。ターキー君の言う通り。

 考えればわかるだろう?

 剣士の私と、戦士のキミしか前衛がいないんだよ?

 ターキー君は中衛だから、攻撃しながらの足止めは無理があるからね。

 うちのPTには攻めの魔法使いは3人もいるが、残念ながら支援系はウチチ君のみ。

 しかもその支援は回復オンリー。敵の足止めができる後衛はいないから――」


「そうそう、セタ君わかってるねぇ~

 だから俺は悩んでいるんだ。今日出されたギルドの依頼は雑魚だが、どれも固めな魔物討伐ばかりだからな。

 西海岸の鎧魚の群れか、尾山の森の硬化スライムか…はたまた東の谷の岩鼠ろっくねずみたちか…」


「ん? ちょっと待って。

 今日さ、薬草採集と川で鉱物拾いもあったよね?

 あれ地味だけど、確実に稼げるし、二手に分かれることもできるんじゃない?」


 マルカが、メモをじっーと睨みながら思案するミッツへと身を乗り出した。


「あー無理無理。

 あれ地味すぎ。俺、魔法撃ちたいからさ」


「あーわかるなぁーその気持ち。

 オレも魔導弓をバンバン撃ちたいしぃなあ~なんかスカッとするんだよねぇー」


「私も剣技でスラッシュとか派手にやりたいですねー」


 ミッツとターキーとセタは、3人で楽しそうに魔物討伐のことを話し始めた。


 マルカは呆れて、他の仲間はどういう考えか尋ねようと声をかけようとしたら、あいかわらずスアラは「くくくっ」と笑うだけで、ウチチも茶をすすってばかりいた…二人とも話しに参加する気はないようだ。

 

 じゃぁアキルスはどうか、と見ると、拳を握ってシュシュッと素振りを始めていた。

 

(だめだこりゃ…)


 ため息をつきつつ、マルカは改めてみんなをぐるりと見渡した。

 共闘に誘われないということは、周りからどう見られているのやら…と。


 マルカとミッツ、スアラは真っ黒なローブ姿でそれぞれお気に入りの杖を持っている、誰が見ても攻撃魔法好きだとばれてしまう格好だ。

 ウチチもローブを着ているが、色は長帽子と同じく水色…

 これは美の女神ミマトーティに仕える神官見習いの服装で、腰に大樹の絵の表紙の大きな聖書を携えているから、回復専門職だとわかる。

 貴重な人材だが、しかし性格がメンドクサイと思われているらしい。

 で、ターキーは革の鎧の軽装で、身動きしやすい格好をしている。彼の腰ベルトには短剣が数本と、椅子には魔導弓が立てかけてある。

 安物だが、魔法が矢になる優れものだ。そうそう扱える人間はいない。

 たぶんこのPT内で一番腕が立つと、誰でもすぐにわかるだろう。

 だが、仲間意識が強く他PTと組みたがらない性格だ。

 それからセタは白銀の胸当てを装備していて、小さな赤いマントを羽織り、腰には剣を差し、さながら昔話にでるような駆け出しの騎士のようだ。

 残念ながら現在のこの国では、騎士は国家試験に合格したエリートしかなれないので、田舎の街の冒険者育成学校卒ではとうてい就けない職業だ。

 ということは、カッコつけたいだけのやつと判断されているに違いない。

 で、アキルスだが、薄いTシャツ一枚に分厚い生地のズボンという筋肉ばかまるだしの格好をしてるから、かなりギルド内でばかにされている存在だ。

 戦士コースの出だが、もともと使いたかった大剣は安物のせいかアキルスの怪力ですぐ折れてしまうため、いまでは拳でぶんなぐるナックルの戦闘をとっていた。

 比較的壊れにくい大金槌をみんなですすめたこともあったが、本人の美学に反すると却下されて、「美学って柄じゃないのにな」と陰口をされることもしばしばだ。


(こんなメンツじゃぁ…どこも誘ってはくれないか…クセすごすぎなんだよなぁ、うちのPT)


 マルカは頭を振って、さらに大きなため息をついた。


 だいたい冒険者育成学校を卒業する時は、皆PTバランスを考えて仲間を選ぶものだ。仲が良いからといってPTまで一緒になる者は、ほぼいない。

 冒険者は職業であり、就職先なのだ。

 がかかわることなので、PT選びは皆慎重になるのだ。

 

(けど、うちは仲良しグループで集まっちゃったしなぁ…これはしゃーないか…)


 マルカは自分の気持ちにそう言い聞かせると、PTの現状をうけいれた。


 しばらくして、いまだ悩むリーダーに、ターキーが意見をした。


「じゃぁ、ミッツ君、鎧魚の群れを明日の朝まで狩り続けるってのは? それなら倒した分だけ稼げるしさ」


「んー、ターキー君、私は思うのだけど、それだと回復役のウチチ君がもたないかと…」


「うむ。

 ターキー君のは良いアイデアだけど…セタ君の言うようにウチ君一人だと無理があるかな…薬が大量に必要になるだろうしなあ…

 むー、どっすっかなぁ――」

 

 と、ミッツがまたメモを見つめながら、あごを指でなで始めたので、マルカの堪忍袋の緒が切れた。


「あーっもうっー却下っ、却下っ!

 今日は確実に返済したいもんっ。

 討伐にでたら夕方に帰宅できるかどうか…

 てわけで、採取ね。薬草採取の依頼、それと鉱物拾いで。

 そこ話し盛り上がってる3人、あんたら川で鉱物拾いだから。

 残りうちらは薬草採取、はい、決まり。

 窓口に申請行ってくるから、準備しとくようにっ」


「おい、マルカ、俺がリーダーなんだけど」

 

「うるさい、もう決めたから。時間の無駄っ」


 マルカは椅子から飛び出して、床に置いていた自分の箒型の杖を拾うと、とっとと窓口へと向かった。

 討伐話しに盛り上がっていた3人は「えぇっマジか」と言っているが、マルカはお構いなしだ。

 卒業して7人でPTを組んでから、ずっとこの調子で稼ぎが少ないのだ。

 ならPTを抜ければと思うのだが、3年間支え合ってきた友情がそれを拒んでいた。


(…あれはあれでいいやつらだし)


 マルカはため息をついたあと、一呼吸してから、

「すみませーん、受けたい依頼があるのでお願いしますー。PT名、今回は二手に分かれて依頼こなしまーす」と、ギルドのカウンター奥にいる受付のおねぇさんに声をかけた。


 PT名”セブンズスターキャッツ”、最近慣れたとはいえ、いまだ言うのが少し恥ずかしいとマルカは思った。

 セブンは7人いるから。

 キャッツは、偶然みんな実家で猫を飼っている猫好きの集まりだったから。

 そしてスターは、PT名登録をアキルスに頼んで行かせたら、勝手にを付け加えていたのだ。「カッコいいじゃん」と。


 登録名を見た時、みんなズッコケたが、改名にまたお金を払うのは嫌だということで、そのまま通したのだ。


「お待たせ、マルカ。

 珍しいわねぇ~あんたたちが魔物討伐以外を受けるなんて。

 じゃこの受付プレートに、ギルドメンバー証明プレート重ねてくれる? すぐ受け付けるから」


 カウンターの奥から、髪をお団子頭にした、弾む声の明るいおねぇさんが、笑顔で出てきた。


「あ、はい。

 いつもすみません、アノアさん。なんか話しがまとまらなくて、勝手にうちが決めちゃいました。昨日も討伐依頼失敗してるんで、確実狙います」


「あら、いいの? あんたのとこのリーダー君、討伐好きなのに」


「あーいいんです、いいんです。もうそろそろ学校にお金の返済しないと、みんなヤバいんで…んですよ」


 マルカは、首からさげていた小指ほどの長さの長方形なプレートを出すと、アノアが持つ手のひらサイズの金色のプレートにそれを重ねた。


 すると淡い光が一瞬だけ放たれて、と可愛らしい音がした。


「はい、受付完了。これでPT仲間のプレートにも情報共有できたわよ。

 では、本日セブンズスターキャッツは二手に分かれて、薬草10束の採取と川の鉱物10㎏拾いをお願いします」


「はい、かしこまりました」


 マルカは、ギルドメンバー証明プレートをしまいながらアノアにお辞儀した。


「マルカ君も大変だねぇ~さながら影のリーダーって感じだね」


「えーやめてくださいよー、陰のリーダーとか、悪みたいじゃないですか。

それにうちはそんな器じゃないから。ただ、1時間以上ものがだけです。うちなだけです」


 マルカは「では失礼します」とお辞儀して、いまだ数名ブーブー言っているみんなの元へと戻っていった。


「短気ねぇ…1時間以上も待てるのは短気じゃないと思うんだけどもなぁ~」

 

 アノアはおかっぱ頭のマルカの背中を見送りながら、ほほ笑んだ。







 


 


 

 

 


 

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