第17話 再戦



陽が落ち、辺りが徐々に暗くなってくる。

 普段は人通りが多く喧騒に包まれているマイター・スクエアは、レストレード警部率いる警察部隊の協力のおかげで全くの無人。ゴーストタウンのような景色となっていた。

「……」

 まもなく出現するであろう切り裂き魔という名の亡霊に体の震えが止まらない。だって、すぐに治ったとはいえ斬られたものは斬られたし、死ぬほど痛かった。もしまたあれが来るのかと思えば……やはり震える。まるで生まれたての子鹿のようだ。

「あの、銀狼さん」

 この恐怖を紛らすように、傍にいる銀髪の剣士に声をかける。

「なんだ」

「あっ、えっとその……」

 まずい。声をかけたはいいものの何も考えてなかった。

「あ、そうだ。あの、前のパーティに居た女の子……フィーネちゃんから聞いたんですけど、一人で竜を倒したってほんとですか?」

 最後の依頼に向かう直前に彼女から聞いた銀狼の逸話。実力と功績のお話だ。

「……ああ、あれか。本当は倒すつもりはなかったんだが成り行きでな。それに俺にとって戦いやすい状況だったんだ」

「へ、へぇ〜……」

 この世界において最強の生物――その一角とされている竜を、戦いやすい状況とはいえ単独で討伐したのは恐ろしいことだ。正直なところどん引き。

「おい、何だその反応は」

「い、いえいえ別に……」

 銀狼さんの詰めを顔を逸らしながら受け流す。

 そんなやりとりをしていると、

「お二人さんちょっといいかい」

 レストレード警部だ。

「あと数分で現れる。そろそろ準備頼んだぞってことを伝えにきた」

「そうか」

 出現時間が分かる理由。それは過去の事件の犯行時間と同じだろうという予測だ。実際、これまでの切り裂き魔の出現タイミングと場所が全て合致しているためおおよそ間違いないだろうとのこと。

「そうだ。この作戦の要は嬢ちゃんだからな。任せたぞ?」

「は、はいっ!」

 わたしがそう返すと、レストレード警部は軽く手を上げ自身の持ち場に戻っていった。

「今のうちに渡しておこう。手を貸せ」

「あっ、はい」

 言われた通りに右手を差し出し、銀狼さんがわたしの手を握る。

 そのつながりを通じて、彼の持つ莫大な魔力がわたしの中に流れ込む。前にも一度魔力を借りたことがあるとはいえ、やっぱりこの力には毎度驚かされる。

「……よし、こんなものか」

 必要分の魔力を渡し終えた銀狼さんは握っていた手を離す。

 その時だった。

「――」

 突如、辺りに濃霧が立ち込める。真っ白で幻想的な景色。しかしながら異様なまでの光景。間違いなく、魔法による現象だ。

「あの時もこんな感じだったな」

 コツ、コツ、と農務を切り分けるように足音が近づく。魔の気配が現れると同時に、銀髪の剣士は背負う鞘から剣を引き抜く。臨戦体制だ。

「……!」

それを確認したわたしはすぐに魔法行使の手順を踏む。今から発動する魔法はこの街全体にまで及ぶ大規模の魔力探知。あの切り裂き魔を操る術者を探し当てるためのものだ。

術者を叩けば魔法は効力を無くす。わたしが術者を見つけるまでの時間は、銀狼さんが切り裂き魔をひたすら戦闘不能に追い込む。それが今回の作戦だ。

「そっちは頼みます。銀狼さん――!」

「ああ。そっちも気張れよ」

 そう言い残し、銀狼さんは切り裂き魔との再戦に臨んだ。わたしは、翔ける彼の背を眺め今やるべきことに注力した。




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