第12話 銀狼
銀色の髪、鋭く敵を睨む蒼い瞳。左手には髪色と同じ銀に閃く一振りの剣が握られている。しかしどういうわけか、山賊の手首を切り落としたであろうはずなのに血が一滴もついていない。その事実が、彼の技量の高さを伺わせる。
「……!」
そして特筆すべきはその圧倒的な魔力量。全身から立ち上るほどの膨大な魔力。全く底が見えない。これほどまでのものは今まで見たことがない。……多分師匠ですら足元にも及ばないのでは……。
「……動けるか」
こちらに目を向けることなく声だけでそう問うてくる。
「ぁ……え、えと……」
言葉に詰まりつつも、なんとか頭を回し、手が縛られていることを説明しようと……そこで気づいた。手枷が外れていたのだ。
「そいつはさっき斬った」
き、斬った……? 全く見えなかったし、そもそもこの人の接近すら気づかなかった。動揺していたとはいえ、魔力を感知させなかったこの人の実力はとてつもないものだとそれだけでも十分以上に察せる。
「女を連れてさっさと逃げろ。男はもう助からん」
「……っ」
言われることでその現実を受け止めざるを得なかった。しかしここは戦場。悲しみに暮れているほどの余裕はない。
それにきっとこの人に任せて問題ない。わたしは言われた通りフィーネちゃんに近づき、地に伏している体を抱える。
「そう簡単にいくと思ってるのか?」
しかし、まだ山賊の仲間がいたようで、出口の前に立ちはだかる。
「はっはぁー! お前らはここで死――」
言い切る前に、飛来した剣が山賊の頭蓋に突き刺さり、勢いやまず岩壁に激突する。
よく見るとその剣はさっきあの人が持っていたもので。つまり、今あの人は……。
バッと振り返り見れば、やはり武器を握っていない。そして、それを勝機と見たのか山賊たちは一斉に彼に襲い掛かる。
「あぶな……」
そう叫ぼうとした瞬間、
――鮮血が咲き乱れる。
「へ……?」
何が起きたのか一瞬分からなかった。
おおよそ十人程の山賊に囲まれ、絶対的な数的不利。その上武器を持っていない手ぶらの状態。普通なら間違いなく死ぬ状況。
しかし、あの剣士は冷静に対処した。
最初の一太刀を一瞥もくれずに振り初めから受け止め、そのままその剣を奪い取る。そして、あとは一瞬だった。
剣の描く銀色の軌跡が、山賊達の首を正確に、最低限の動作で切り捨てていく。遅れて咲く鮮血の花々。それはただの血飛沫だというのに、ものすごく綺麗で美しいものだと錯覚した。それほどまでに、彼の剣技は完成されていた。
「……! 後ろ!」
しかし、山賊の長はしぶとく、手首を切り落とされて尚あの剣士の隙を窺っていた。そして虚をつき再び振り下ろされる凶刃。
直後――バキンッ、と何かが折れた音がこの部屋に響き渡る。その音の正体は、
「な、なな、なんで……」
その音の正体は、山賊の持っていた一振りの剣。折れた刀身を見て、山賊は動揺を隠しきれずにいた。
「その程度じゃ、俺は斬れん」
腰が抜け震えている山賊の長に一歩一歩近づき、髪を引っ張るように頭を引き上げる。
「お前、この男を知っているか」
腰のポーチから紙を取り出し突きつけている。何の話か、その内容までは聞き取れない。けど、こんなタイミングで問いただすということはよほど重要なことなのだろう。
「――――」
あの剣士の背が壁になってその問答はよく見えない。しかし、
「……そうか」
と、その声だけ聞こえ――、
――一閃――。
最期の一太刀を受けた山賊は、切断面から血飛沫を上げながら力なくその場に倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます