第11話 絶望



「……ぅ」

 意識か覚醒した。最初に感じたのは頬にある僅かな痛みと、手首にある謎の圧迫感。しかしその正体はすぐにわかった。わたしは、拘束されていた。

「な、なんで……⁉︎」

 ガチャガチャと無造作に動かそうとするも、金属で作られた手枷はあまりにも硬くどうすることもできない。それに、それ以外にもなんだか変な感じが……。 

「ヨォ、魔法使い」

「……っ⁉︎」

 聞き馴染みのない悪意の混じった野太い声が耳に届く。

 声の主の方に目を向ければ、おそらく山賊であろう人間がおよそ六人ほどいた。

 敵がいる。油断している。なればこそ、仕留めるなら今だ。

「……――〈ファイア・ボルト〉」

 自身の魔力を炎に変え、無数の矢にして敵を貫くイメージをする。何度もやってきた魔法行使の手順。

「……!」

しかし、どういうわけかわたしの魔力が世界に具現化することはなかった。

「あぁ、無駄無駄。魔封石で作った手枷だ、そいつがついてる以上魔法は使えねえよ」

 ……なるほど。さっき感じた違和感はそれか。多分、この部屋の壁全体が魔封石だ。だからあの時治癒の魔法も発動できなかったんだと思う。

「……」

 魔力自体が練り上げられない以上、わたしに抗う術はない……詰みだ。

「……二人は、どこに……?」

 わたしが問うと、山賊は仲間に指示を出し、

「っ……⁉︎」

「――――」

「……ぁ……す……」

 隠されていた奥の部屋からボロボロの二人が連れてこられた。装備は剥ぎ取られ、ロウくんは血まみれで意識がない。フィーネちゃんに至ってもかろうじて息がある程度。目に生気はなく、小刻みに身体が震えている。どんなことをされたのか想像に難くない。

「……げ、て……」

「っ……」

 奥歯を深く噛み締める。

 失敗した。どこかで今回もいけるだろうと思ってた。これまで成功続きで調子に乗っていた。少し考えればもう少し結果は変わっていたかもしれない。もっと策を講じておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。

「……ぅう、くっ……」

 申し訳なさ、情けなさに思わず涙が零れる。

「はぁっは! おい! この女泣きやがったぜ!」

 そんなわたしの姿を前に、山賊たちは嬉々として声を上げる。

 一人の山賊がつかつかと近づき、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべながらナイフを取り出して、こちらに突きつける。

「俺らはよ、てめえみてえに泣いて喚いて命乞いをする女を殺すのが大好きなんだよ。もちろん、殺す前に死にたいと思うほどのことを味わわせるけどなあ」

 フィーネちゃんに視線を移しながら言う。

「どうせならてめえもやっときたかったが、魔術師相手は何が起きるかわかったもんじゃねえ。面倒なことになる前に始末させて貰うぜぇ」

 ――凶刃、振りかぶる。

 わたしは自身の最期という現実から逃避するように目を瞑る。

「……?」

しかし、いくら待とうとも山賊のナイフが振り下ろされることはなかった。代わりに、何かが滴る音、金属の甲高い音、男の野太いかすかな声が耳に届く。恐る恐る目を開けると――、

「ぁ、ああ……」

 命を刈り取る山賊の刃は空を切り――否、文字通り宙を舞っていた。

「ぎゃぁぁぁぁぁ! 痛えぇぇえぇえええ!」

 無くなった自身の手首を抑え、その場に倒れて身悶えする山賊。そして、その目の前には。

「……」

 たった一人の銀色の剣士が立っていた。



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