第8航 散歩での出来事
歓迎会もそろそろ閉会となる。
たくさん食べたお菓子。
たくさん飲んだジュースと共に改めて友達になれたミズとパーニーとのおしゃべりが思い出すたびに笑ってしまう。
それほどに楽しかった。
そして、
どうやらこの世界にも前の世界のような「歯磨き」や「お風呂」などの生活習慣はあるようだった。
ログハウスの中のような洗面所で、歯を磨く。
カシャカシャカシャと、またもや「いつもの日常」を彷彿とさせるようなそんな音が自分から…いや、歯磨きからしてきた。
眠い目を擦り、ミズとともにお布団へと入る。
パーニーはアクアと夜の訓練があるから、と行って帰ってしまったが、ミズがここにいると全く孤独が感じられず、逆に楽しすぎて忘れ物を撮りに来たパーニーに注意されてしまったほどだった。
支給されたパジャマを着て、髪の毛を完全に解いたミズはやっぱりあっちの世界にいるような女の子にも見えてきてしまって、早々に目を閉じる。
「おやすみ、ナギちゃん。」
「うん。おやすみ。ミズもね。」
「ありがとっ」
暖かいお日様の匂いがするお布団に包まれて、私はゆっくり、でも静かに眠りについた。
日差しが、目に優しく当たる。
自然と起き、まだ寝ているミズに布団をかけて、ゆっくりと立ち上がった。
カーテンの外を見れば綺麗な海と暖かい光が当たっていた。
…少しだけ、海の方へ散歩に行こう。
そう思って、昨日ハンガーにかけたばっかりのセーラー服に着替えて、ミズが起きないようにそっとドアを開けた。
外へ出ると、心地よい風が体に受ける。
横を見れば綺麗な海があたりいっぱいに広がっており、とても、とても美しかった。
そんな時、「あら、ナギじゃないですか。」とパーニーに声をかけられる。
「おはよう。パーニー、さん」
「おはようございます。あ、そしてさん付じゃなくて結構ですよ。パーニーとでも呼んでください。」
「おけ、わかった。」
会話が一旦静まる。
並んでまた海の方へ歩き出した。
「…ナギの顔を見て思い出しましたが。
あそこへはナギは今日行く予定なのですか?」
「あそこ?」
「ええ。詳しい名前が未だかつて、そこにいる人もわからないようで。勝手に『人相見の屋』なんて呼んでいる人たちも多いようなのですが。第3部隊ではあそこと呼ぶのが一般的です。」
「人相見…」
「簡単に言えば自分に合った武器を占いでわかるところ、また、異国から来たものには動物の力を借りる印として耳や角が頭に生えてきます。私で言えばドラキュラの角ですね。」
「動物の力を借りる印…武器とかにその動物の力が加えられるの?」
「はい。動物の力、いえ、やはり『生命力』と呼ぶべきでしょうか。生命力が武器の力と+αのような感じで出てきます。」
「すごいね…!!」
「でしょう。同じ武器でも生命力が違うのであれば全く違う攻撃になるのですよ。」
にこっと微笑むパーニーを見て、やはり友達になれた、という喜びを覚える。
ほくほくとした顔で、そういえばと我に返った。
動物の力。生命力。ミズが扱っていたあの鎌はとても重そうだったというのに、あんなに高く飛んでいた。
猫の生命力を借りているだからだろうか。確かに猫はすごく高くても、飛んでしまう。
そういうことだったのだと理解する。
「なにかスッキリしたような顔ですねえ」
にやりとこちらを向いて笑う顔は、さっきの微笑みとはまた違う意地悪さが少しだけあった。
「ミズのジャンプ力は、そういうことだったのかって思って」
「ああ。確かに。他にもミズは暗がりの中でもよく見えますからねぇ。猫と同じですから。」
「それは便利…だね」
そんな会話をしていると、ミズがこちらに向かって走ってくるのが見える。
なぜか焦っているように顔を向けられた途端、急にはっとしたような顔つきでこちらにもっとスピードを上げて走ってきた。
「あらミズ。おはようございます。」
「はぁっ…おは、おはよ、おはようぅ〜」
どうしてわからないが、安心したのかその場にしゃがみ込み、私の手を掴んだ。
「何にも言わないで外出て行くから心配したんだよぉ〜、ほん、ほんとによかったぁ…」
どうやら私が何も言わなかったせいで迷惑をかけてしまったみたいだ。
申し訳ない気持ちを抱えながら、ごめんと一言謝る。
いいよ、そう言われてこちらも安堵しつつ、ふとミズの耳に生えている猫耳を見つめる。
私も、こんなふうに人間から一歩離れるのか。
そう思うと少し、わくわくした。
凪と渚 油に水 @Oshare1
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