第9話 紫の炎は全てを燃やす

「駄目だ、全然攻撃が当たらない!」

 

「ヒョーヒョー、そんな攻撃じゃあ俺様には当たらないぜ〜!」

 

 妖人は青い羽を振り青い炎を繰り出す。しかし鵺は素早い動きで簡単にかわす。

 

「オラッ!」

 

 鵺は妖人に飛びかかり爪で妖人の左腕を引っ掻いた。

 

「ぐっ……」

 

 妖人の体が他の3人のように呪いに蝕まれていく。

 体は重くなり、視界がぼやける。

 

「一体……どうすれば……」

 

 妖人は朦朧とした意識の中ふと先程した会話を思い出した。

 

(鵺には弓で退治されたって言う伝説も残ってるんだよ!)

 

「――そうか!できるかはわかんないけど!」

 

 妖人の左手から青い炎が現れた。力を込めると炎は弓の形に変わった。右手に持っている羽は長くなり先端が尖って炎の矢に変化した。

 

 妖人は出現した弓を構えた。

 

「そんなのに俺様が当たるかよ!」

 

「…………」

 

 目をつぶり心を落ち着かせて弓を引く。

 

「…………!」

 

 妖人は矢を放った。

 

 鵺は妖人が放った矢を簡単に避けた。しかし放った矢は獲物を捕らえようとする鳥のように追いかけていた。


「な、何!?」


 そして妖人の矢が鵺の腹へ突き刺さった。

 

「ぐああああ!」

 

 鵺の動きが止まり倒れた。

 

 妖人は鵺の呪いが解け、体を自由に動かしずらくも多少軽くなっていた。

 

「助かったかも〜」

 

 姫華が起き上がり安心していた。

 

「良かった……」

 

 妖人がほっとしていると、姫華は近くで倒れていた真森を起こそうとしていた。

 

 腹に矢を刺された鵺が唸っていた。妖人はとどめを刺していなかった。

 

「どうして……とどめを刺さなかった……」

 

 妖人はフラフラと歩きながら鵺に近づく。

 

「だって……僕、とどめの刺し方知らないし……」

 

 妖人は少し微笑んでいた。

 

「それに、たとえ知ってても……やらなかったと思うよ」

 

「……なんでだ……」

 

「僕は人間と妖怪が仲良くなれる世界を作りたいんだ。だから妖怪を殺めることもできるだけしたくない」

 

「……ヒョー、甘いな〜」

 

「ふっ、かもね」

 

「なら俺様も、歩み寄ってやるか……」

 

「なら…………ぐっ……がっ……」

 

 妖人は何が起きたのか分からなかった。背中に燃えるような痛みを感じ地面に倒れていた。

 

 そして後ろから響生が現れた。

 

「ごめんね妖人、少し倒れてて」

 

 響生は倒れている鵺に近づいた。

 

「響生……どうして……」

 

 妖人はさっきまでの戦いの疲れと今の攻撃で完全に体が動かせなくなっていた。

 

「あっ!?な、なんだお前!?」

 

「これで、鵺の力が手に入る……」

 

 響生は鵺に触れた。

 

 すると鵺の体が紫の炎に包まれた。

 

「ぐああああああ!!!」

 

 鵺の悲痛な叫びが部屋中に響いた。

 

 やがて紫の炎が小さくなるに連れて鵺の体は消えていった。

 

「手に入れたぞ……鵺の力を!」

 

「そんな……響生!」

 

「あ〜背中を焼いたのは悪かったよ〜許してくれ妖人。さて、あとは真森さんを」

 

 響生は姫華と起きたばかりの真森の所へ向かった。

 

「ちょっと!まゆちゃんに何する気!」

 

「は〜川石さん……ちょっと邪魔」

 

 響生は姫華の首を掴んで紫の炎で首を焼いた。


「ぐはっ……」

 

 妖人が倒れている場所まで投げ飛ばした。

 

「姫華!」

 

 姫華はそのまま気を失ってしまった。

 

「やめて……来ないでください!」

 

 響生は怯える真森を優しく抱擁した。

 

「君はもう……独りじゃない……」


 その声は不気味な程に穏やかだった。

  

 響生が呟くと先程の鵺のように真森が紫の炎に包まれた。


「やめて!響生!」

 

「助けて……お願い……」

 

 真森は炎の中から救いを求めて妖人に手を伸ばしていた。

 

「真森さん……やめろ響生!」

 

 妖人は地面に伏せながら必死に立ち上がろうとしていた。

 

 響生は妖人の叫びを耳に入れなかった。

 

 そして真森まゆは力尽きたかのように伸ばした手は下ろして、紫の炎に飲み込まれて消滅した。

 

「…………うああああああああ!」

 

 妖人は自らの無力さに叫んだ。

 

「響生!……お前ぇ!」

 

「何をそんなに怒ってるのかな?君の背中を焼いたこと?川石さんを傷つけたこと?」

 

 響生がため息をついて部屋を出ようとした時、妖人がギリギリの様子で震えながら立ち上がった。


 その顔は今までの優しい性格からは想像出来ないほどに怒りをあらわにしていた。

 

 妖人の体から青い炎が吹き出し妖人の上で一つの塊となった。そして形を変え、巨大な鳥に変わった。

 

「ふーん」

 

 その鳥は響生を目掛けて突撃した。

 

 しかし響生は右手を鳥に向けて紫の炎で壁を作り鳥の突撃を止めた。

 

「そんな中途半端な力で、俺に勝てるわけないでしょ」


「くっ……そっ……」

 

 鳥の姿が消え、妖人も倒れて気を失ってしまった。

 

「じゃあね、妖人」

 

 響生はすっかり暗くなり月の光が照らす部屋を出て行った。

 

 倒れた2人が居る部屋はただ静かだった。

 

 少しして妖人の体から先程よりは小さい青い炎が窓から外へ飛び立って行った。

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