第8話 鵺は呪いをかける

湖の一件から次の日、妖人と姫華は人気の少ない校舎の端の階段で会話していた。

  

「昨日は危なかったかも……」

 

「うん、一応優さんには報告したけど」

 

「大事なお話中お邪魔するよ二人とも」

 

 いきなり2人の後ろから声がして急いで振り返った。そこにはクラスの学級委員の新園響生(にいぞのひびき)と同じく学級委員の真森まゆがいた。

 新園響生は紫髪で眼鏡をかけて、誠実そうな見た目をしている。

 真森まゆは黒髪のロングヘアで清楚な見た目をしている。

 

「今の話……聞いてた?」


 妖人が恐る恐る質問する。

 

「いいや、何も」

 

 響生は怪しく軽い笑みを浮かべている。

 

「えっと……話は聞いてたんですけど、内容はよくわかってないです」

 

「それなら良かったかも。で、どうしたの?」

 

「真森さんが学力向上をお願いしたいんだって」

 

「え?どういうこと?」

 

 姫華は響生の曖昧な答え方に聞き返した。

 

「詳しく説明しますと、最近、ある噂を聞いたんです。夕方に廃ビルで鳴き声が聞こえて、その鳴き声の主に願いごとをするとなんでも願いが叶う。それで、その話をなんとなく新園君に話したら、そういうのに詳しい人たちを知ってるって言われて」

 

「それで2人の所に来たんだよ」

 

 姫華は妖人の肩を軽く叩いて2人に背を向けて小声になった。

 

「妖人、まさか新園くんに私たちの話してないよね?」

 

「もちろんしてないよ、姫華じゃないんだから」

 

 2人の会話を聞いているかのように響生がタイミングよく会話を遮った。

 

「2人が前に怪奇現象の話をしてるのを聞いたことがあったから」

 

 姫華と妖人は体の向きを元に戻した。

 

「そういうことね。うん、なんでもない」

 

「こういったことに詳しいのでしたら、一緒に来ていただけませんか?」

 

「そういうことなら、協力するよ!」

 

「こういう怪奇現象は辻として調査しておかないと」


「姫華?」


「あ、なんでもないこっちの話、それじゃあ、放課後にその廃ビルに行ってみよう!」


 4人は放課後に噂の廃ビルに訪れた。

 

「ここだね……」

 

「普通の廃ビルかも」

 

「ここで鳴き声が聞こえるそうです。ヒョーヒョーという」

 

「ヒョーヒョーって鳴き声ってもしかして……」


 姫華が思い出すように言った。その後に響生が呟いた。

 

「鵺(ぬえ)……」

 

「え?よく知ってるね」

 

「いやーあんまり詳しくはないよ」

 

「鵺って確か……色んな動物が合体した見た目の妖怪だっけ?」

 

「そうだね。有名なのは猿の顔、獅子の胴体、狸の手足、蛇の頭の尻尾も持った見た目かな」

 

「新園くん、凄く詳しいじゃないですか!」

 

「いやいや、全然詳しくないよ」

 

「いや、全然詳しい部類だと思うよ……」

 

「え〜っと〜、鵺には、弓で退治されたって言う伝説も残ってるんだよ!」

 

「なんで張り合おうとしてるの……」

 

「だって悔しいじゃん!」


「なるほど、じゃあ、鵺には呪いで人を病気にしたって言う伝説もあって……」


「はいはい、もういいから2人とも」


 知識バトルをしようとした2人を妖人が早い段階で止めた。

 

「ふふっ、なんだか楽しいです。こうやってお話するのが」

 

「あれ?でもなんか変かも」

 

「変って何が?」

 

「鵺って別に願いを叶える妖怪では無かったような気がして……」

 

「……ヒョー……ヒョー……」


 突然ビルの方から例の鳴き声が聞こえた。

 

「今のって!」

 

「あの鳴き声ですかね……」

 

「よし、中に入ってみよう」

 

 4人はビルの中に入り、階段を登っていった。

 

 ビルの中はコンクリートで作られており、雰囲気のせいか、気温のせいか、肌寒く感じた。

 

「なんだか、探検みたいで楽しいです」

 

「確かに、なんかワクワクしてきたかも」

 

「そういえば、どうして真森さんは学力向上なんてお願いするの?十分成績良さそうだけど……」

 

「えっと……それは……ですね……」

 

 真森は少し俯いてから喋った。

 

「実は、私には姉がいまして、いつも学力は私より姉の方が上なんです。どんなに頑張っても、姉を超えることはできなくて。それに、両親も姉ばかりを見ていて……

 ……すみません!こんな話をしてしまって……」

 

「え……?いやいや!すごく努力してるなーって思ったよ!」

 

「うんうん!私には絶対できないよ!」

 

「……そうか……真森さんもひとりなんだね……」

 

「え?新園くん、どうかした?」

 

「いや、なんでもない。そういえば狭間くん、俺のことは響生って呼んでよ、俺も妖人って呼びたいから」

 

「え、別に良いけど……」

 

「良かった〜それじゃあよろしくね妖人」

 

「う、うん響生」

 

「あれ?なんか仲良くなってんじゃ〜ん」

 

「着きました!鳴き声が聞こえるのはこの部屋からですね」

 

 4人の目の前にはごく普通のオフィスのドアがあった。

 

 先頭に居た妖人はアルミ製のドアノブに手をかけてゆっくりと回してドアを開けた。

 

 その部屋の中は夕焼けで赤くなり、それなりに広く、階段と同様にコンクリートの壁で作られていた。部屋の真ん中に不自然にも鳥居が置かれている。

 

 妖人と姫華は少し警戒しながら4人はその鳥居に近づいた。

 

「それじゃあ、願い事をしてみますね……」

 

 真森はその鳥居の前で両手を合わせて拝んだ。そんな時、ヒョーヒョーという音がだんだん大きくなっていくような気がした。

 

「まゆちゃん危ない!」

 

 その違和感に気づいた姫華は急いで真森を抱えて鳥居から遠ざかろうとした。

 

 その瞬間、鳥居の中から口を大きく開いて閉じた猿の顔が飛び出てきた。

 

 真森を抱えた姫華は勢いのあまり床に転んでしまった。

 

 猿の顔は鳥居から伸びて四足歩行の手足も出てきた。しかしその手足は猿のものとは違い太く毛深かった。

 

「ちっ、逃したか、まぁ良い。結局生気を吸い取るだけだからな!」


 その猿の顔は喋っていた。


「青鷺火!」

 

 突然の出来事ですぐに反応出来なかった妖人だったがすぐに青い羽を取り出した。

 

「お前が鵺か!」

 

「ヒョーヒョーヒョー!その通り!俺様こそが、鵺様だ!俺様は腹が減ってるんだよ!お前たちの生気をまとめて全部食ってやるぜ!」

 

「生気?どういうことだ!」

 

「妖人!大変!まゆちゃんの様子が!」

 

 鵺を挟んで少し向こうに居た真森はうずくまって小さな声で唸って具合が悪そうだった。

 

「ぐっ……まさか……これが鵺の呪いか……」

 

 妖人の隣に居た響生も真森と同じく具合が悪そうになっていた。

 

「響生!大丈夫!?」

 

「なんとか……大丈夫……」

 

「姫華!響生と真森さんを連れて逃げて!」

 

「わかった!」

 

「そうはさせるか!」

 

 姫華が真森の腕を肩にかけようとした時、鵺は素早く近づき姫華に爪で攻撃した。

 姫華は肩に傷を付けられてしまった。

 

「ぐっ……」

 

 本来ならこれくらいの攻撃なら耐えられたが鵺の呪いの力のせいか姫華は倒れてしまった。

 

「姫華!」

 

「ヒョーヒョーヒョー!さぁ、次はお前の番だ!」 

 

「させない、絶対にお前を止める!」

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