第4話 陰陽師は不良気質


昨日僕、普通の高校生、狭間 妖人(はざま ようと)は鬼に襲われた。そしてクラスメイトの川石 姫華(かわいし ひめか)に助けられたが姫華は鬼にボコボコにされてしまう。僕は何故か持っていた妖怪「青鷺火」の力を使い鬼を倒し封印することに成功した。その後人間と妖怪の境界に立つ組織「辻」に連れてこられ、そこにいた男、世煌 優(せきら ゆう)に組織に入らないかと誘われ人間と妖怪が仲良くいられる世界を目指して入ることにした。


 そんな長い自分語りをしながら登校して教室のドアを開ける。自分の席を目指すとクラスメイトで辻での仲間である姫華に声をかけられた。


「おはよう! 妖人!」


「おはよう! 姫華!」


 ギロッ


 周りの目線が一気に集まった。これはまずい。


「おはよう!! 川石さん!!」


「えっ……」


 傷ついてる……ごめん姫華、学校では名前呼び出来そうにない……

 僕は昨日交換していた彼女の連絡先に謝罪と説明のメッセージを送り彼女はすぐに理解してくれた。



 

 放課後、僕が帰ろうとすると姫華からメッセージが送られてきた。


『辻に集合!!』


 姫華の席の方を見ると彼女はすでにいなくなっていた。

 気を使って先に向かってくれたのか。助かる。

 辻に向かおうとすると後ろから声をかけられた。


「狭間くん」


 前もこんなことあった気がする。

 後ろを振り向くとやはりクラスメイトで学級委員長の新園 響生(にいぞの ひびき)くんがいた。


「昨日はごめんね」


 昨日? ああ、水筒の件か まさか、あんな大変な事になるとは思わなかったけど。


「いや、別に大丈夫だよあれくらい」


「色々助かったよ、今度何かあったら言ってね、今度は俺が手伝うから」


「じゃあ、その時はお願いするよ」


「それじゃ、俺はこれから学級委員の仕事があるから、じゃあね」


「うん、じゃあ」


 新園くんは教室を出て行った。

 自分もさっきのメッセージを思い出し急いで教室を出た。


 昨日行って覚えていた道を辿って和風喫茶店の辻に着くことが出来た。

 ドアを開けるとお店のカウンターに優さんと姫華がいた。手前のテーブル席を見るとお皿が積み上げられ1人のお客さんがみたらし団子を食べていた。

 あの量を1人で?

 

「おっ、来たか妖人!」


「優さんこんにちは」


「学校では驚いちゃったよー いきなり名字呼びなんだもん」


 2人と話しているとテーブルに座っていたお客さんが立ち上がって話しかけてきた。


「おめぇか、鳥野郎は」


「えっ? どなた?」


「こいつは辻の」


「片桐 かたぎり じんだ」


 彼は自分と同じ高校の制服を着て錫杖(しゃくじょう)、修行してる人がよく持ってる杖を持っていた。目付きが悪く、赤みがかった髪色をしている。見るからにガラが悪い。


「仁は陰陽師なんだ」


「お前妖怪使いなんだってな」


「そうだけど……」


「しっかり世話しとくんだな、全ての悪霊は俺が祓う」


「そんな……」

 

「妖怪はいつ人を傷つけるか分からない」


「でも全部の妖怪がそうな訳じゃないだろ」


「どうだかな」


「もー、仁やめなよー」

 

「2人ともストップ、どっちもの言いたいことは分かるから、俺のために争わないで〜」


「いや、優さんのために争ってないですから」


「おっ、妖人突っ込んでくれるのか!」


「下らねぇ」


「ちょっと! 確かに否定はしないけど…、そんな言い方無いでしょ!」


「いやせめて否定して、まあいつもの事だから良いんだよ、これこそホントの俺のために争わないで?」


 ピコンッ


 突然優さんのスマホの通知音が鳴り、優さんがすぐに確認した。


「おっと、山で妖怪の目撃情報、今すぐ向かえってさ」


「山? 学校の近くの?」


「いや、それとはまた別」

 

「俺が行く」


「じゃあ、俺が車出して、妖人と姫華も着いて来てくれ」


「わかりました」


「わかった」


「車……かよ……」


 あれ? 今片桐くん怖がった?


「それじゃ、行くぞ」




 山道入口まで着きみんなで車を降りた。山道入口ではどこかの組織の制服を着た2人が立っていた。優さんはその制服の2人に話しかけに行った。


「よっ、お疲れさん」


「あっ、ナギさんとツボさんだ」

 

「「お疲れ様です」」


「もしかして1年くらい立ち続けてる?」


 優さんがまた訳の分からないことを言っている。


「そんな訳無いですよぉ、ウッ……ウッ……」


 右側に立っていた人がいきなり泣き出した。


「ぶふっ、……30分前くらいです」


 左側に立っていた人は吹き出した後、急に真面目な顔に戻った。


「ナギさんは涙腺が弱い人で、ツボさんは優さんのボケでツボる人なんだ」

 

 変な2人過ぎる……


「貴様、今俺の事を変な奴だと思っただろ、こいつは変でも俺は違う」


「えー!、僕も変じゃないよー!

 ウッ……ウッ……」

 

「この2人は辻の本部のやつだ、いつも妖怪が出た所の立ち入り規制をしてる」


「えっとー、よろしくお願いします」


「よろしく……ウッ……ウッ……」


「よろしく」


 僕たち4人は2人から山の中での情報を聞いてから山道に入った。


 この山はあまり高くなく、ハイキングにちょうど良いためそれなりに登山客も多い山だ。 

 しばらく歩いていると道が2つに別れていた。


「二手に分かれてるな……よし、妖人と仁は左の道、俺と姫華は右の道に行こう」


「え!?」


「んだよ」


「いや、なんでも……ないです」


 優さんわかってて振り分けたのかな?


「そうだ! 妖人、これお前に渡しとくよ」


 優さんはポケットから御守りを取り出して渡してきた。

 

「これは?」

  

「持ってればその内分かるから、よし、じゃあ行くぞ」


 なんなんだこれ…… 

 僕たちは2人ずつに別れて道を進んだ。




 片桐くんと歩いてから数分後、会話が無い……

 なんか嫌われてるみたいだし、何を話せば良いのか分からない……

 そうだ! なんで辻に入ったのか聞こう


「片桐……くん? はどうして辻に入ったの?」


「……全ての悪霊を祓うため」


「そっか……なんで?」


「おめぇに言うわけねぇだろ」


「……だよね」


「僕は……」

 

 次の話題を考えようとした時、いきなり体から青鷺火が出てきた。


「クワッ」


「うわっ、青鷺火どうしたの?」


「近いな……」


 突然片桐くんが走り出した。


「え? 何が……」


 片桐くんを追いかけると急に開けた場所に着いた。

 正確には木々がなぎ倒され、一面荒地となっていた。


「何これ……」


「まずい!」


 片桐くんが慌てて見た方向を向くと、 おそらく登山客らしい人が怯えた様子で座り込んでいた。

 登山客が向いていた方向を見ると、離れた所で背中に竹が生えた巨大なイノシシが登山客に突進しようと地面をかいていた。


「やばい! 助けなきゃ!」


 僕は登山客をイノシシから守ろうとして咄嗟に走り出した。

 

「おい!」

 

 次の瞬間イノシシは登山客に向かって走り出した。

 このままじゃイノシシが登山客にぶつかると思った時、登山客の前に地面が突き出し一瞬で土の壁が出来上がった。

 イノシシはその壁にぶつかり動けなくなっている。

 片桐くんは登山客に駆け寄った。


「大丈夫か!」


「あ、ありがとうございます……」

 

「礼はいい、立てるか? 急げ」


 片桐くんが肩を貸して登山客を山道まで連れてく


「こっから降りれる、気をつけろよ」


「はい、ありがとうございました」

 

 登山客は急いで山を降りて行った。


「人助けしたりするんだ……」


「俺のことなんだと思ってんだ?」


「いやー別に、あの土の壁は何?」


「あれは俺の術だ、水の女みてぇに何もねぇとこから出せる訳じゃねぇが、土があれば操れる」


「すごいね……」


「まあ、そんな長くもつモンじゃあねぇけどな」


 イノシシが土の壁を壊して抜け出し、こちらを向いた。


「あのイノシシは? 1本足が無い?」


「あいつは多分猪笹王(いのささおう)だな」


「猪笹王?」


「ああ、背中に竹が生えたイノシシの妖怪、猟師に殺されたイノシシが妖怪になったって言われてる、来るぞ!」


 青鷺火が形を変えて羽に変わり僕はそれを掴んだ。


「ブモォーー!」

 

 猪笹王が吠えると地面が揺れ竹が生えた。それに当たると2人とも吹き飛ばされてしまった。


「ぐはっ、あれ? 思ったより痛くない?」


「優さんから御守り貰っただろ、あれのおかげで普通の攻撃なら少しは守れる」


 あれそういうやつだったんだ……

 猪笹王が今度は突進しようと地面をかいている。


「また突進してくる……」


「上等だ」


 片桐くんが猪笹王に杖を向ける。

  

「猪笹王、今からおめぇを祓う!!」

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