第3話 辻は境界の組織




「着いたよ」


 ここがツジ? ただの和風な雰囲気の喫茶店にしか見えないけど、これが組織なんて大きなものなのか? それに閉店中だし

 

 僕、狭間妖人(はざまようと)と川石姫華(かわいしひめか)さんは先程高校の近くの山で謎の鬼に出会い、その鬼を封印してきた。そして少し歩いてここまで連れてこられた。

 

 お店の外装の看板に辻(つじ)と書いてあった。

 

 ここなのか。


「じゃあ、入るよ」


「え? ちょっと!」


 ガッ


 え?


「あれっ? ……まただ ちょっと待って、なんか引っかかって開かない……」


 川石さんがスライド式のドアを何度も開けようとするがどうしても途中で引っかかる。


「ちょっと、やってみても良い?」


「あ、お願い」


 ガラガラ


 簡単に開いた


「……ありがとう、入ろう」


 川石さんがお店に入るとスタッフらしき人がお店のテーブル拭いていたが、僕たちがお店に入ってきてこっちを見た。


「ふっ、姫華、お前またドア引っかかったのか?」


「もうーユウさんやめて欲しいかもー この子は同じクラスの狭間妖人くん」


「ああ、よろしくな、

 俺の名前は世煌 せきら ゆう気軽に優って呼んでくれ」


「えっと、狭間妖人です……」


 優さんは黄色い髪で、すごい笑顔な人だ。


「まあ、とりあえず2人とも座ってくれ」


 僕は椅子に座ろうとしたが、閉店中だったからか椅子がひとつも置いてない。


「フッ、座るための椅子が無いよな、アハハ」


 優さんは笑ってお店の端に重ねてある椅子を3つ持ってきた。

 もしかしなくてもこの人面倒臭いか?


「この人のボケは無視していいから」

  

「酷いな〜まあ良いけど、――早速だが、君が青鷺火を呼び出したって言うのは本当か?」


「一応、はい、自分でもよく分かってないんですが……っていうか青鷺火って何なんですか?」


 質問をした瞬間自分の体から青い炎が出て小さな青い鳥が出てきた。


「グワッ」

 

「うわっ、君はさっきの……なんかさっきより小さくない?」


「まさか、本人から出てくるとは 青鷺火ていうのは……妖怪だ まあそんなこと分かってるよな(笑)、君は彼と契約、というか彼と会った事はあるか?」


 青鷺火は自分の肩に止まった。


「えっと、よく覚えてないんですけど、この鳥を見た時少し子供の時の記憶が出てきて、でもよく思い出せないんですよね」


「もしかしたら、小さい時に契約したのかもな、それで覚えてなかったがさっき山で力が覚醒した、か……」


「……あのー、ここって一体何なんですか?」

 

「そうだな……俺たちのいる辻は人間と妖怪の境界となる役割を担っている、お互いに関わり過ぎないように、この喫茶店は俺が趣味で勝手にやってるだけだ」


「人間と妖怪の境界……でも、人間の感情によって生きていられる妖怪もいるって見たことがあるんですが」

 

「もちろん人間の感情によって生きていられる妖怪もいる、そういう妖怪は条件付きで許してる、でも中には君たちが戦った鬼のみたいに必要以上に人間を殺そうとする妖怪もいる、そういう妖怪から色んな人を助けたりもしてる。」


「助ける……」

 

「……真面目な話、君が良ければだが、辻に入らないか?」


「え? 僕が!?」


「確かに、狭間くんと青鷺火、強かったから、良いかも」


「姫華が鬼に襲われた時、君は逃げずに立ち向かった、その正義感と青鷺火の力を使って欲しい、頼む」


 辻に入れば、あの本みたいに沢山の人を助けられる。いや、それより……あの本みたいに妖怪と仲良くなってみたい……それならもちろん答えは……

 僕は確認するように肩に乗っている彼を見た。

 

「……わかりました、僕、辻に入ります!」


「ありがとう、よろしくな! 妖人、青鷺火」


「やった! よろしくね、妖人! 青鷺火!

 あと、辻に入ったんだから私のことは姫華って呼んで欲しいかも」


「え!? ……わかったよ、姫華……?」


 さっきまで名字呼びだったのにいきなり名前呼び……


「よろしい! ……イタタッ、そういえば鬼から受けた怪我治さなきゃかも……」


 確かに、自分も掴まれた首と殴った手が痛い……


「そう言うと思って、ウチの名医には話を通してある、早速行こう」


 名医?


「2人とも厨房に来てくれ」 

 

 3人でお店の奥に行くと厨房に着き、そこにあったドアで優さんが4回ノックすると扉が光った。


 そこを通ると和風の廊下に入った。

 その廊下には数人の人と、数体の人じゃないおそらく妖怪が歩いていた。

 明らかにお店の裏にあるとは思えない構造をしている。


「ここは辻の本部、死後の世界だ」


「え!? 死後の世界!?」


「死んだ訳じゃないから大丈夫だよ」


「あそこは店と本部を繋ぐ扉になってるんだ、どこでもドア〜だな」

  

 廊下を進んで行くと診察室と書かれた部屋の前に着いた。診察室のドアを開けると、そこには椅子に座って作業をしていた白衣を着た1人の女性がいた。女性はこちらを見て喋った。


「来たわね、お兄ちゃん」


「お兄ちゃん!?」


「こいつは俺の妹の世煌 恵奈せきら えなだ!」


「恵奈さん、来たよー」


「あら姫華、そっちのが新入りの子?」


「そう、クラスメイトの狭間妖人と青鷺火」


「えっと、狭間妖人です、よろしくお願いします」


「グワッ」


 恵奈さんは優さんと同じ黄色い髪で、長い髪を下ろして眼鏡をかけていた。

 ……あれ? 話を通してあって新入りの子っていう認識ってことは最初から僕を入れるつもりで、入るってわかってたってこと?

 優さんを見ると恵奈さんと楽しそうに話していた。掴めない人だ。


「恵奈は辻の医療班で妖怪との戦闘で怪我した隊員を診る仕事をしてるんだ

 さっき連絡した通り2人を診てくれ」


「はいはい それじゃあ早速、姫華から 2人は廊下で待ってて」


 そう言われ、僕と優さんは病室から廊下に出た。

 待っている間、僕は優さんと今日の鬼と戦った話や妖怪の話なんかをした。優さんの多少のボケ付きで


 話していると姫華が出てきた。


「次は妖人の番だよ」


「わ、わかった……」


 姫華に言われて、知らない場所で知らない人と個室に入るのに少し緊張しながら診察室に入った。

 

「じゃあそこの椅子に座って」 


 僕は言われた通り椅子に座った。


「さっき聞いたけど、姫華を助けたんだって?

 やるわね」


「いえいえ、最初は逃げようと思っちゃってましたし……」


「それでも助けたんだから結果オーライよ どこか痛む所はある?」


「えっと、首と手の裏ですかね」


 僕がそう言うと恵奈さんは僕の首と手の裏を触りながらどこが痛むかなどの確認をした。

 いくつか確認すると恵奈さんは後ろの身長より高い棚からいくつかの薬のようなものを取り出し、コップに水を入れて持ってきた。


「とりあえず、骨に効く薬と肌に効く薬、これを飲みなさい」 


 えっ、怖……

 僕は渡された2つの錠剤を恐る恐る飲んだ。

 すると飲んだ途端首の痛みと手の痛みが消えた。


「えっ!? すごっ!!」


「さっきは姫華が薬を水で飲み込めなくて大変だったわ」


「あー、そうなんですね」


「なんかあったらまた来なさい、面倒臭い兄だけどよろしくね 青鷺火もね」


「ありがとうござました! 恵奈さん!」


「グワッ」

 

「お大事に」 

 

 僕は診察を終えて診察室を出た。


「おっ、帰ってきたか、それじゃ戻るとするか」


 優さんは診察室のドアを開け恵奈さんに別れを告げ、僕と姫華を連れて、行きに通った道を通りお店に戻ってきた。



 

「よし戻ってきた、もう時間も遅いし妖人は帰った方がいいな、送って行くぞ」 


「えっ! 良いんですか……?」


「私も着いて行きたいかも」


「よし、2人とも俺の背中に乗れ!」


「「……」」

 

「うそうそ、2人とも外に出て車に乗るぞ」



 

 優さんに運転して送ってもらい、家の近くまで着いたので車を停めてもらった。


「ここで大丈夫か? もう少し近くでも良いが」

 

「ここで大丈夫です」


 車から降りると青鷺火が自分の体に飛んできて消えた。おそらく自分の中に入った。


「うわっ」


「青鷺火もお家に帰ったんだね」


「……優さん、僕人間と妖怪が仲良くいられる世界を作りたいです」

 

「それも辻の1つのあり方だ、応援する」


「ありがとうございます 姫華もこの後家に送って貰うの?」


「ううん、私はお店に住み込みで働いてるからこのままお店に戻るよ」


「え? そうなんだ」


「じゃあ妖人、また明日学校でね!」


「うん、じゃあね」


 僕はため息を零しながら優さんの車を見送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る