第二十九節「迷子の子、何処へ往く」

「迷子です。はい。私、迷子になっちゃいました」


 そこは見覚えのある空間。結局、私は迷子になる運命みたいで、ここに戻ってきていた。

 分かっていた。分かってはいたんだ、私の居場所があそこにしかないって事ぐらい。でも、夢見ぐらい良い時間を過ごしたかった。それが、我儘だって知ってても、止められる筈がない。

 だって、あの人は私をこの場所から救い出してくれたから。


「――なんでしょうね、ここ。真っ白な空間に独りぼっち、なーんも分かんないです」


 独りぼっちなんて嘘で、ちゃんとジートリー達の魂がこうして漂っている。

 それは、いつか見た光景と全く一緒だった。

 滅んだ世界の者達が、何故救わなかったと私に投げかけてくる。一種の脅迫概念かもしれない。でも、皆喋らなかった。呆れてるのかな? 

 神様なのに、世界を救えない私に幻滅してしまったのかも。


 それに、魔女は居なかった。そう、何故か居なかった。

 旅の仕方と、魔術の使い方を教えてくれると言っていたあの人はこの空間に来てなかったんだ。もしかして、死なずに生き延びたのかな?

 

 もし、そうなら私は初めて人を救えた事になる。願ってくれた人を救えた。それだけでも、神様としては飛び跳ねる程嬉しくなる。

 寂しいのは変わらないけど。


「独りぼっち、寂しいなぁ~」


 願いがあって、神様があって、過去に囚われた人を救う事すら出来ない軟弱な神様である私は、ただただ仲間達の魂と一緒に漂う事しか出来ない。

 だからこそ、ビックリしたんだ。


「ん……? あ、待って。待ってください! そこ、そこの貴方! 貴方ですよ!! あぁ、初めて誰かと会えました。――きっと、貴方も迷子になっちゃったんですよね!」


 迷子だった私の前に突然、それは現れた。奇しくもその人は、私と似ていて居るような気がして、全身が丸焦げになっている事除けば、双子と言えるような見た目だと、感じた。

 感じただけで、本当は分からない。でも、他人事のようには思えないぐらいには、その人の事を羨ましいとさえ思える。


「迷って、迷って――多分、貴方の世界、壊しちゃいました!」


 その人は微笑んだ。大丈夫だよ。安心していいよ。って顔で。

 

 途端、私は。泣き虫だって言われても良い。こんなにも、心苦しい中、泣くなって方が無理だ。


「だから、だから! お願い、です。私を、……んぐっ、みつけ、ひぐっ――。見づけてぐだざぃ! おねがいだからぁ!!」


 その人は小さく頷き、返事無しに人影は消えていく。小さな願いを携えていくように消えていた。


 だから、私は願う。だって、私は神様だから。神様は何を願ったって許される。と、エウリカは言っていた。なら、何個願っても良い筈だ。

 私は願いを持つ事にした。

 

 例え自らの意思に反して、世界を壊したとしても、感情がぐちゃぐちゃにされて、訳が分からなくなっても。

 私は旅がしたい。色んな事を知りたい。我儘をしたい。

 皆ともっと仲良くなりたい。

 皆の笑顔が見たい。冒険がしたい。魔術を覚えたい。


 ……そして、エウリカのような、魔女になりたい!!


 ありったけの願いを込め、手の中で祈り、願う。それが、自らの意思だって教えてもらったから。だから、私は後悔しない。

 したくない。


「お前がお前の為に死を望むなら、出来るだろうさ。グレイス、これはお前の物語だ」

「魔女? 魔女! ねぇ、居るんだったら、返事してよ!」


 居なかった筈のその人の声が、一瞬聞こえた気がした。もしかしたら、幻聴だったかもしれない。いつも小馬鹿にしてきて、周りに当たり散らして、デカい態度を取るような魔女だったけれど、迷子の私に色を付けてくれた。

 だから、叫んだ。呼び続けた。


「魔女、うぅん、エウリカ! 返事をして、お願いだから!!」


 返事は帰ってこない。

 でも、私はまた叫び続ける。助けて、願いを叶えて、真実を見せて! と、そう思いながら、願う。願って、願って。血反吐を吐きそうな程、叫んだ後。

 突然、それは聞こえてきた。


「うるせぇぞクソガキ。良いから、俺に構わず、……進め。これはあんたの旅路だ」


 いつの間にか、目の前に真っ黒とした歪みが現れていた。

 時空間だ。魔女が見せてくれた魔術の一つで、私をあの世界に連れ出してくれた魔女の魔術なのは明らかだった。

 そして、あの声は独りで行けと言うけれど、不安が私を襲っていた。

 本当に旅に出れるのだろうか? そう、疑い掛けた時には、皆の顔が浮かんでいた。


 魔女エウリカ友達ジートリー師匠シャルロッテ弟子ルーナ

 皆、笑って私に教えてくれた。あの日々は、嘘なんかじゃない。ちゃんとあった。

 

 ――決めた。私は旅をして、絶対に、皆を救って見せる。

 だって、皆の笑顔を思い出すだけで、十分過ぎる。私には迷うなんて選択肢はない。


「それじゃ、……行ってきます!」


 物言わぬ三つの魂達に私はお別れの挨拶をする。

 皆はこの事を、分かってないかもしれないし。神様としての役目を果たせないかもしれない。だってこれは、独りぼっちの神様である私の旅路だから。


 けど、今はほんの少しだけ違う。皆から貰った思い出を胸に、歪みに触れた。


 瞬間、あの時と同じ感覚が身を包む。あの時は、ただ怖くて、新しい世界を知らないだけの私だった。

 でも、今度は知らない事を知る旅なんだ。

 

 。それが神様なんでしょ。魔女エウリカ

 

 歪む視界、その先にある世界を救うために。アルカレスカと皆を救う為に、私は神様として頑張る。

 そう、私は神様なのだから。


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迷子の旅路 ステラ @sazann403

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