第12話 ギロチン令嬢「初めまして、おふたり共」
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術式電報の内容が令嬢軍の上層部に届けられた結果。取り付く島もなく却下されたレイネの「鉄の街」遠征は、ぬるっと当然のように許可された。
と、レイネは報告を受けた。
理由は主にふたつ。聖女軍は「アイシャにはレイネに勝った実績がある」と思っているが、実際は逆であるため有利が取れそうなこと。そして獲得勝利数が「5」と破格であることだ。
令嬢軍と聖女軍の勝利数の差は、現在ちょうど「5」であるため、この戦争に勝てばその差が埋まることになる。聖女軍は勝利を確信しているからこそ、条件に差をつけて令嬢軍を「釣って」きたのだろうが、令嬢軍から見ると、これは簡単に勝利数5を得ることが出来るボロい戦だ。
恐怖のギロチン娘を調査隊に組み込む、という不確定要素を飲み込んででも、「この戦争には受ける価値がある」。令嬢軍上層部はそう判断した、ということだった。
宣戦布告の報が届けられてから3日。中央塔の裏手、いくつかの仕切りによって区切られた戦闘演習場の端で、グーラが言う。
「と、いうわけで顔合わせだ。4つの枠のうち、レイネは前提条件。私は子守り。あとふたつは、適正・自薦・他薦・直近の予定・くじ引き・ジャンケン・早い者勝ちなどを根拠とした厳正なる審査によって選定された」
「実際はどうですの?」
「希望者が2人しか来なかった」
「……私、嫌われてますのでしょうか?」
「顔見るとトラウマ刺激されて吐くのは嫌われてるうちに入るか?」
どうとも判断ができず黙っているうち、
「ははは、そんなことないってよー」
そう言ってこちらを気遣う言葉をかけてきたのは、女性にしては背が高いレイネよりも、さらに数センチ大きな上背を持っている悪役令嬢だった。
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髪は金髪。ただしレイネのそれとは違い、やや色素の薄い落ち着いた風合いを持っている。それを頭の左右でお団子にまとめた髪型は活発さを感じさせた。
服装は令嬢に多いゲーム個別の学生服。ただし各所に改造を施し、ルーズソックスを履きこなす様は、いつか見た90年代の日本における典型的な女子高生のようでもあった。
「あーし、ルカ。ルカ・タングスター。3週間前の出撃に出ててんだけど、覚えよる?」
「あー、確か……ゴーレムの」
ゴーレム令嬢。確か錬金術系のゲームへの転生者、とのことだった。ルカ自身は名家の生まれだったが、傲慢さと主人公の努力によって没落の憂き目にあう、というストーリーだったのだそうだ。
「そそ! あん時は不覚ったってばねー。レイネちゃんが来てくれて助かった! 今からあーしらマブね、マブ!」
なんだか古いのか新しいのかよくわからないノリだが、会話が続かないよりはずっといい、とレイネは思った。
それに、この人もまたひとつの人生を生きた悪役令嬢なのだ。合う話はいくらでもあるだろう。
レイネが不安に思うのは、もうひとりの方だった。
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さっきから視界に入ってはいるが、グーラともルカとも一定の距離を保とうとしているその少女。
レイネは、意を決して彼女に話しかけてみることにした。
「……あの。私、レイネ・ドルキアンと申します。よろ」
「ストップ、だ、悪役令嬢」
そう言ってレイネの言葉を遮ってきたのは、パーカーで目元を隠した少女だった。
猫背のため低く見えるが、レイネと同じか少し低いくらいの身長だ。フードからこぼれる髪は自と黒の色が入り混じっており、乙女ゲーの世界観からしても珍しい部類に感じる。
背中には、戦争や遠征という言葉からは想像できないくらいに可愛いらしいキャラクターリュックを背負っていて、似合う・似合わないは別として、場違いなことこの上ない。
レイネは言った。
「……あなたも悪役令嬢のはずでは?」
「正論、は、嫌いだけど、その通りだとこの場は折れておく。自分の名、は、ガラル・モルテン。クラフト系の乙女ゲーム世界、に、転生して、ここに送られてきた。得意なこと、は、発明。……最初に言っておくけど」
言う。
「自分は、自分の性質、を、とてもよく理解してる」
つまり、
「自分、は、前世も、前々世も、いつも周りに流されて生きてきた。気づいたら、悪徳議員の秘書に、なっていた。気づいたら、違法パーツを扱うシンジケート、の、リーダーになっていた。気づいたら、主人公の攻路対象のはずの魔族に、惚れられて、魔界統一トーナメントに、参加する羽目になっていた」
「自業自得の気配がするんですけど」
「正論、は、嫌いだと言っただろ。つまり、だから、あなたのような個性的な令嬢、と、馴れ合うつもりは、毛頭ない。きっと、ひどい目にあう。これ、は、自分の経験上、絶対。そこのところ、ご理解いただける、と、とてもうれしい」
そこまで言うのであれば、こちらとしても無理に関係を深めようとは思わない、とレイネは考えた。
だがその前に、レイネには確認したいことがある。
「そのリュック、『ジェリー=GUY』ですのよね? 『ナイスGUYギルドスター』の劇場版ボス、『ハルマゲ=GUY』の幼年体の」
ガラルが目を見開いた。ような気配を、フードの奥から放った。
「え、あ、そ、そう! わかる!? 映画、と、OPテーマは有名だけど、『ジェリー=GUY』知ってる人、あんま、いなくて」
「映画での登場は『クロー=GUY』からでしたものね」
「あ、あれ、キャラクタービジネスとして、は、悪手だと、思うんだよ。『クロー=GUY』、は、鋭利な爪が付いてる、けど、『ジェリー=GUY」は、まんまるで、こんなに可愛い、のに」
「でもそれ、そんなアイテムありましたっけ? 公式ショップでも見てないような」
「それは、その。じ、じ、じ、自作、というか」
「え!? マジですの!?」
「前々世では、即売会、でも、売ってたよ。きみ、生まれは、何年?」
「2028年ですの」
「あー、自分、もう死んでる、な。一応4000個くらい売ったから、中古ショップとか、に、あった可能性はあるけど」
「そういえばオークションサイトか何かで見たような……」
「え、ほんと? い、いくらくらい、に、なってた?」
「70万」
「……………え? ジンバブエドル?」
「円ですの、円」
「ジンバブエ円?」
「どうしてそう自分の技術に懐疑的ですの……」
「い、いや、なんか、信じられなく、て。そ、そうか。ふふ。そうか……。……これ、よかった、ら、作って、あげようか?」
「え、いいんですの!? ああでも、せっかくなら私『テクテク=GUY』がいいですわ!」
「いい、よ。口から、荷物、入れられるようにしようか。牙がチャックで」
「最高ですわね! そうと決まればこんな遠征、ちゃっちゃと終わらせますわよ! ガラルさん、あなたも協力してくれますわよね!?」
レイネの言葉に、ガラルは笑顔で答えた。
「ま、まあ、ね。ふふふ。仕方ないなあ、レイネちゃん、は」
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グーラは恐怖を感じながら言った。
「……今私、詐欺が成立する現場を見た気がするんだが」
「グーラちんもー? 実はあーしもっしょ」
ふたりは、楽しそうに笑うガラルを、憐憫の籠もった目で見つめ続けた。
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