第三章 生活圏、実は「死の森」⑥

「つかおまえ、今どこに住んでるんだ? いや穿鑿せんさくする気はねえが、しかし記憶喪失の子を放って帰るってのも冒険者として……なあ」

「そうね。命を救ってもらった恩もあるし。あなた食事はどうしてるの? ちゃんと食べてる?」

「……え、ええと。実は今、この近くの洞窟で生活してます」

「洞窟? んなとこあったっけか……。まあちゃんと生活できてるならべつにいいんだけどよ」

 だ、ダンジョンだって一応洞窟みたいなもんだよな!

 嘘は言ってない、嘘は!

「……ちなみに、記憶喪失のよそ者であるオレが街へ行ったとして、歓迎してもらえる雰囲気でしょうか? ずっとここでこの生活を続けるわけにも……」

「あなた、冒険者ってことは確かなのよね? だったら《ブレイブ》――あ、冒険者ギルドね、そこに冒険者として登録すれば、普通に街の人と同じように生活できるわ。ただし、半年以内に金貨

 三枚を納める必要があるけど」

「なるほど……」

 金貨三枚って、あの宝物庫にあったやつか?

 だったらまあ、余裕だな。数え切れないくらいあるし。

「気になるなら案内するぞ」

「あ、いえ、今日はちょっとそろそろ……。後日、街まで行ってみます」

 さすがにそろそろ帰らないと、リュミエが待っている。

「そうか、分かった。んじゃ、俺らもそろそろ帰るか。暗くなるとモンスターも増えるしな」

「引き留めてしまってすみません。ありがとうございました」

「これくらい何てことねえよ。また何かあれば声かけてくれ」

 ベルンたちは、ドラゴンの牙を回収すると街の方へと戻っていった。

 ――いいヤツらなんだけどな。

 でも、こいつらがリュミエを奴隷としてこき使った挙句、おとりにして捨てて逃げたのは紛れもない事実で。

 そう思うと、どうしようもなく苦い感情が広がっていく。

 なぜ、この優しさをリュミエに向けられなかったのか、と。

 冒険者という職業が命がけなのは分かる。

 でもだからって、無力な少女を物として使い捨てていいわけがない。

 ……まあ、そういう常識の中で育ってきたってことなんだろうな。

 オレだって、人間の子どもと犬が危険な目に遭っていたとして、片方しか助けられないのなら。

 それなら迷わず人間を助けるだろう。

 つまりきっと、そういうことなのだ。


   ◇◇◇


「ただいまリュミエ。遅くなって悪かったな。変わったことはなかったか?」

「おかえりなさいっ。はい、特に問題ありませんでした」

 ラスボスエリアに戻ると、リュミエが可愛い笑顔で迎えてくれる。

 ちなみに広大なラスボスエリアを歩くのは面倒なので、帰宅時は休憩室を転移先としている。

「そうか、ならよかった。今日はこれからホットケーキを作るぞ!」

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