第三章 生活圏、実は「死の森」⑤

「……そういえば、あなたずっとここにいるんですか?」

「え? ええ、まあ」

「あれからもう一週間は経ちますが、その身軽さでどうやって生活してるんです?」

「おいアレスタよせよ。訳ありって言っつってただろ。恩人だぞっ」

「…………まあ、そうですね。気になってつい。申し訳ありませんでした」

 ――なるほど、このアレスタって男は要注意だな。

 勘が鋭いし、少なからずオレのことを怪しいと思っている目だ。

 それに多分、リュミエに直接酷いことをしていたのは――。

『この国の法律で、奴隷に罰を与えられるのは正式な契約者のみとされています』

(……そ、そうか)

 メカニー、普段は黙ってるけど、実はずっとオレの心を読んでるんじゃないだろうな!?

 オレの中で、メカニーへの不信感が10ほど上昇した。

 まあ今はそんなことは置いておいて。

 どうせなら少し利用させてもらおう。

「……実はオレ、記憶喪失なんです。気づいたらここにいて、どこからきたのかも分からなくて」

「なっ――訳ありってそういうことかよ。だったらもっと早く言ってくれりゃ」

「それであの、もしよろしければ、街や冒険者ギルドについて教えてくれませんか?話を聞けば何か思い出すかも」

「……分かった。ここから二十分ほど歩いたところに結界エリアがある。そこで話そう。ここに長居するのは危険すぎる」

 結界エリアというのは、恐らくモンスター除けがされた場所なのだろう。

 オレはベルンやその仲間たちとともに、結界エリアなる場所へと向かった。


 しばらく行くと、青く光るガラスでできた杭のようなものに囲われた、直径三メートルほどのエリアへとたどり着く。

「狭いけどまあ座れよ。話を聞こう」

「……ここは?」

「ああそうか、記憶喪失だったな。あの杭はドラゴンの牙を加工した特殊アイテムでな、これで囲って魔力を注ぎ込むと、モンスター除けになるんだ」

「へえ、そんなものが。すごいですね」

「スキルストーンほどじゃないけど、これもすごく高いし貴重なの。手に入れるのに苦労したわ。でもベルンが向こう見ずだから、ないと絶対死ぬと思って」

 先日助けた女性――アルマは、そうため息をつく。

「うっせえ! 冒険者なんか向こう見ずでなんぼだろ」

「……そうやって多くの奴隷とレアアイテムが犠牲に」

「そうですよベルン。奴隷やアイテムだだってタダじゃないんです。それにこの間は、アルマまで大怪我をしたじゃないですか」

「それはまあ――悪かったよ……」

 四人のやり取りを聞いていて、何となくこいつらの性格や関係性が分かってきた。

 リーダーのベルンは、いわゆる脳筋というやつで間違いないだろう。

 そしてアルマはベルンとともに戦闘要員、頭脳担当で奴隷の管理をしているのがアレスタ、回復や魔法担当がこの――まだ名前を聞いていない水色の髪の少女ってところだろう。

「それであの――」

「ああ、悪い悪い。ええと……」

 ベルンによると、この最難関ダンジョンがある森はアース帝国の最北端に位置し、「死の森」と呼ばれている非常に危険度の高い場所らしかった。

 死の森に生息するモンスターは強さがとにかく規格外で、常識が一切通用しない。

 そのため特別指定区域として立ち入り禁止となっており、入れるのはランクA以上の冒険者、かつギルドの許可証を得た者のみとなっているという。

 ――なるほど。だからこんなに人が少ないのか。

 そういや転生してここに来た日、ダンジョンに何組か冒険者がいたはずだけど――こいつら以外ってもしかしてもう……。

「……そんな危険を冒して、なぜこんな地に?」

「そりゃおまえ、ダンジョン攻略のために決まってるだろ。ラスボスを倒せば一生遊んで暮らせるくらいの褒賞金が出るからな!……それに、誰かがやらなきゃいけないことだ。幸い俺たちは強い。なら、やるしかねえだろ?」

 ベルンはキリッとドヤ顔を決め、何の迷いもない様子でそう言い切った。

 ――うん。出会ったときから薄々思ってたけど。

 このベルンって男、脳筋だけどめちゃくちゃ良いヤツだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る