第二章 ラスボス、冒険者を救う(一回目)⑧
「……とりあえず、これ食べながらオレの話を聞いてくれ」
「……こ、これは?」
「桃だよ。甘くておいしいから食べてごらん」
「は、はい。いただきます……」
シロは【桃】を口に入れ、その甘さと瑞々しさに酔いしれる。
全身から溢れているおいしいオーラが子どもらしくて可愛い。
「……あのな、シロ。落ち着いて聞いてほしいんだけど。実はオレ、さっきの――君と初めて出会ったダンジョンのラスボスなんだ。ああでも、別な世界から強制的に連れて来られただけで敵意はまったくないんだけど」
「……そ、それってつまり、この世界最強のラスボスってこと、ですか?」
「あー、まあ、そういうことになるのかな。たぶん」
実際どうかは知らんけど。
「す、すごいっ! かっこいいです!」
「――――へ?」
「だからお強かったんですね? モンスターから助けてくださった時、私、びっくりしたんです。だってあのモンスター、最高ランクの冒険者様四人が逃げ出すくらい強かったんですよ? それを石一つで倒しちゃうなんて――!」
あ、あれ?
なんかこう、もっと怯えるとか拒絶するとか、そういう反応を見せると思ったんだけど。
「あの、オレのこと怖くないのか? ラスボスだよ?」
「でも、私のことを助けてくれた、とっても優しいラスボスですっ!」
リュミエはそう、まっすぐで好意的な笑顔をこちらに向ける。
「……そ、そうか。ちなみにここは、ダンジョン最下層にあるラスボスエリアだ」
「ラスボスエリア!? あの、魔力持ちやスキル持ちの冒険者様でも到達率1パーセント以下と言われている、あの!?」
シロは目をキラキラとさせ、羨望の眼差しでオレを見ている。
なんか思いのほか嬉しそうだな!?
オレよりよっぽど肝が据わってる気がする……。
「あ、ああ、そう、かな? 挑戦者も滅多に来ない超難関らしい」
「じゃあ私、今そんなすごいところにいるんですね。えへへ」
あ、あれー?
「……ええと、まあ話ってそれだけなんだけど。シロはこの話を聞いて、オレと一緒にいるのが嫌になったりは」
「? しません」
ですよね! そんな気がした!
まあよかったけど!!!
「じゃあこれからよろしくな。……ああそうだ。一緒にやっていくなら自己紹介しなきゃな。オレは小鳥遊蒼太だ。蒼太でいいよ」
「ソ、ソータ様」
「うん。で、君の名前も考えたい。何か希望はあるか?」
「ソ、ソータ様にいただける名前なら、何でも嬉しいです」
な、なんだこのうずうずと気恥ずかしい、全力で抱きしめたくなる感じは!
可愛いがすぎる!!!
もじもじしながらも一生懸命応えてくれるシロを見て、人がいるっていいなと実感する。
一人は一人で気楽だが、こんな温かい気持ちには絶対になれない。
「うーん、なら――そうだ、リュミエはどうだ? 外国の言葉で光って意味の単語が語源なんだ」
実は、いつかペットを飼ったときにつけようと思ってた名前だけど。
まあでも、シロよりはだいぶマシだろう。
「リュミエ……ひかり……とても、とても素敵です」
「お、じゃあ今日から君はリュミエだ。よろしくな、リュミエ。一緒にいっぱいおいしいもの作ろうな!」
「! おいしいもの! わ、私にも作れるでしょうかっ」
「解毒はスキルだから難しいと思うけど、料理自体はできるんじゃないかな。オレもまだこの世界のこと全然知らないんだ。二人でいろいろ試していこう」
「はいっ! 私、ソータ様のお役に立てるよう頑張りますっ!」 ――あのリュミエを見捨てた冒険者たちは、今どうしてるんだろう?
後悔はしないんだろうか。
本気で仲間を心配していたし、突然現れたオレにも快く接してくれた。
悪いヤツらには見えなかったのに……。
事故にあって転生して、突然ラスボスを押し付けられた時は「ふざけんな!」って思ったけど。
でも、ラスボスである事実は変えられない。
それなら、オレはこの力を使って誰かを守る道を選びたい。
どうせ元々、ただの会社員だったんだ。
できることなんて限られている。全員幸せに、なんて無理な話だ。
だからまずはこの子を、リュミエを幸せにしよう。
安心して、心穏やかに暮らせるようにしよう。
名前を得て嬉しそうにするリュミエを見て、オレは自分の気持ちを改めて確認した。
――さて。
明日はどんな料理で喜ばせようかな。
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