第三章 生活圏、実は「死の森」①
転生してラスボスになり、リュミエと出会った日から一週間。
「――よし! できたぞ!!」
「おおおおお!」
ラスボスエリア内にキッチンが誕生した。
キッチンとは言っても、当然ここにはガスも電気も通っていない。
だからそこは魔法任せになってしまうが。
しかし自由に水を使えるシンク、火を使えるコンロ代わりの台があるだけで、利便性は大きく変わってくる。
「今は魔法任せだけど、いつかはリュミエも使えるように改良するからな」
「あわわ……魔力なしでごめんなさい……」
「気にするな。オレだって昔(転生前)は魔力なんてなかったよ。それでもちゃんと生きてこられたんだ。リュミエだって、環境さえ整えば何不自由なく暮らせるさ」
配慮がないこの世界では、魔力なし――ノーアビリティは生きることすら難しい。
野生の植物やモンスターに毒があり、買わないと食料が手に入らないのだから尚のことだ。
「ソータ様、元々はノーアビリティなんですか!?」
「いや、オレが元いた世界には、そもそもスキルも魔力も存在しなかったんだ」
「そ、そんな世界が……」
「そんなことよりリュミエ、せっかくキッチンもできたことだし、今日はジャムを作るぞ!」
「じ、じゃむ……?」
「果物を煮込んで作る保存食だ。甘くてうまいぞー」
ちなみに砂糖は、少量ではあるが宝物庫で発見した。
恐らく貴族出身のヤツか、稼ぎのいい上位の冒険者でもいたのだろう。
砂糖が次いつ手に入るか分からない、という不安もありはする。
でも、ジャムで喜ぶリュミエの顔が見たかったし、食べさせてやりたかった。
「ええと、【林檎】と……【ラズベリー】があったな。この2つでいこう」
まず鍋を用意し、林檎の皮をむいて細かく切ったもの、ラズベリー、砂糖を入れて軽く混ぜる。
「す、すでにおいしそうです……」
「あはは、少し食ってみるか?」
オレは鍋の中身をスプーンですくい、リュミエに与えてみた。
「――――っ! 甘くてすっぱくて、とってもおいしいですっ! この少しシャリシャリしてるのが砂糖ですか?」
「ああ。出来上がりはもっとおいしいぞ」
手をパタパタさせながらおいしさを噛みしめるリュミエを横目に、鍋を火にかけ、弱火~中火で混ぜながらじっくりと煮込んでいく。
あとは灰汁を捨てつつ、とろみがつくまで煮込めば完成だ。
相変わらずコンロはないから薪で火を起こしているが。
普通なら、文明の利器に慣れ切ったオレがこんな簡単に火加減できるはずない。
きっとスキル【料理】のおかげだろう。
――そう考えると、このスキル取っといて本当によかったよな。
スキルがなくてもあのコンフードよりはマシかもしれないけど。
でも、今ほどの絶品料理には絶対にありつけなかった。
「よし、できた!」
「す、すごいですっ。キラキラつやつやです!!」
周囲にはラズベリーと林檎の爽やかで甘酸っぱい香りが立ち込め、食欲を刺激してくる。
「ほら、味見」
「!?よ、世の中にこんなにおいしい食べ物が存在したなんて……とろけそうです……」
リュミエは驚いた顔でこちらを見る。
そしてもっと食べたいのか、ちらちらと鍋の様子を伺っている。可愛い。
「はは、うまいだろ。こいつはそのままでもうまいけど、スイーツにも料理にも使えるスグレモノなんだ。でも一気食いはだめだぞ。またあとでな」
「はい……」
おかわりNGと聞いて露骨にしょんぼりするリュミエに、吹き出しそうになってしまった。
――よし、午後はちょっと出かけるか。
手に入れたいものもあるしな。
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