第二章 ラスボス、冒険者を救う(一回目)②

「――ん、んん」

「アルマ! おい、アルマが目を覚ましたぞ!」

「……わ、私、あれ?」

 アルマはゆっくりと起き上がり、深手を負っていた脇腹を触り、見て、それから不思議そうにあたりを見回している。

 さっきは余裕がなくて気づかなかったが、長く美しい赤い髪をポニーテールにしたアルマはとんでもない美人だった。

 髪と同じく赤い色をした瞳に、吸い込まれそうになる。

「こいつが治してくれたんだ」

「あの傷をこんな綺麗に!?」

「その……治癒系のスキル持ちらしくてな」

「!?」

 ……あれ、スキルってもしかして、全員が持ってるもんじゃないのか?

 この世界でのスキルの位置づけが分からない。

『この世界でスキルを持っているのは、人口全体の5%程度です』

 メカニーは、さらっととんでもないことを言ってのけた。

 先に言えよ! 思いっきり使っちゃっただろ!

 ちなみにメカニーの言葉は、オレ以外には聞こえないらしい。

「こ、こんな貴重な力を初対面の私のために使ってくださるなんて……本当に、なんとお礼を申し上げたらいいか」

「ああ。俺たちではアルマを助けられなかった。ぜひとも何か礼をさせてくれ」

 アルマという女性を含めた冒険者たちは、口々にお礼を言って頭を下げた。

 ……お礼って言われてもな。

 街に行くにしてももう少しこの世界のことを探りたいし、お金にも困っていない。

 食料も、コンフードしかないならもらっても意味がないし、そもそも貴重な食料をもらうわけにはいかない。

「いやあ、偶然通りがかっただけなので気にしないでください」

「そんな、あなたは私の命の恩人です!」

「皆さんがこのまま元気に帰ってくれることが一番嬉しいですよ。ダンジョンの外は森ですし、モンスターもまだまだ出るでしょうから。お気をつけください」

 ようやく出会えた人間と別れるのは少し寂しい気もするが。

 しかし今の状況で誰かと関わるのはリスクが高すぎる。

 さっきのスキルみたいに、うっかり使った何かが実はチートでした、なんてことが重なれば、オレがラスボスだとバレてしまうかもしれない。

 早いとこ撤退してくれないかな……。

「…………もしかして、どこかのお偉い聖職者様がダンジョンの浄化にいらっしゃったのでは?」

「はは、だとしたら、僕たちすごい無礼者ですね。ベルンなんてさっきから完全にタメ口ですよ」

 ずっと黙ってこちらを見ていた水色の髪の魔術師(っぽい格好をした少女)が、ぽそっと隣にいる緑色の髪の男に耳打ちし、二人でこちらの様子を伺っている。

 聖職者――だったらよかったよな。

 でも、残念ながらラスボスなんですごめんなさい!

 ベルン、というのは、恐らくオレに積極的に話しかけてくるこのツンツンオレンジ髪の男のことだろう。

 がっしりとした体格や今の雰囲気から察するに、多分こいつがこのパーティーのリーダーだ。

「……それにしても、こんな最難関ダンジョンに大した装備もなく入って無傷なんて、あんた一体何者なんだ?」

「え、ええと、すみません少し訳ありでして」

「そうか。まあ冒険者なんて訳ありの連中ばかりだしな。余計なことを聞いて悪かった。とにかくありがとう。俺らはアース帝国の冒険者ギルド《ブレイブ》に所属している冒険者だ。何かあったらいつでも声かけてくれ」

 ベルンはオレに握手を求め、そしてほかのメンバーを引き連れて去っていった。

 本当なら無事帰れるよう見守りたいところだが、相手はベテラン冒険者だ。

 オレみたいな世間知らずでは、逆に足を引っ張ることになるかもしれない。

 チートスキル持ちとはいえ、戦闘になったらオレにできることは何もないし。

 さっきのスライムみたいに都合よく死んでくれるとは限らないしな。

 ――そんなことより。

 今は食料だ食料!

 スルメもうまいけど、これだけじゃ腹は膨れないし。

 ずっとコンフードで生きていくなんて絶対に嫌だ。


 ◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る