第一章 転生したらラスボスだった⑥

   ◇◇◇


「キュイイイイイ!」

「お、オレが誰だか分かってんのか? このダンジョンのラスボスだぞ!」

 ダンジョンから出ようと試みて、とりあえずダンジョンの一階に転移したところ。

 なんとそこには、野生のモンスターがいた。

 青く透き通ったぷにぷにとした体を持つこのモンスターは――。

『スライムです』

「知ってる! いや見たのは初めてだけども! でも何となく分かるよ! そんなことよりどうしたらいいんだこれっ」

 目の前にいるのは、一体のスライム――ではなく。

 なんと十体も同時に現れたのだ。

 しかもそのうち一体はやたらと大きく、百七十センチあるオレの身長の半分はある。

 一応武器は持ってきたが、いざモンスターと遭遇すると、ちょっとした動きでとびかかってくるんじゃないかと怖くて動けない。

  ――くっ。こんなことなら《認識阻害ローブ》着てくるんだった。

「メカニー、こいつらいったいどうしたr」

 メカニーの指示を仰ごうとしたそのとき。

 十体のスライムたちが、一斉に襲い掛かってきた。

 ――だ、駄目だ、間に合わない。

 転生したばかりだというのに、また死ぬのだろうか?

 しかもスライムに殺されて。

 …………そう思ったが。

『スキル【料理】を発動しますか?』

「はあっ!? ちょ、おま、今そんなこと言ってる場合じゃ」

 いやでも、もう時間がない!

 何もしないよりは、もしかしたら時間が稼げるかもしれないし!

「ああもう! します! してください!」

 やけくそになって、そう叫んだ次の瞬間。

 スライムたちは真っ白な光に包まれ、その場にポトポトと――いや、正確にはコロコロと転がり落ちた。

「――は? え?」

 下を見ると、そこにはスライム――だったはずの、干からびて小さくなった半透明の塊が十体分散らばっている。

 な、なんだこれ?

『スキル【料理】により、スライムから【スルメ】を生成しました』

「はあああああああああああああ!?」

 相変わらず感情の欠片もない無機質な音声で、メカニーが淡々と説明する。

「す、スライムの干物……ってことはつまり、これは食料なのか? というかオレ今何もしてないんだが? これどうやって倒したんだ?」

『スライムは雑魚モンスターですので、ラスボスである蒼太様の魔力に当てられて勝手に死にました。それをスキル【料理】で干物に』

「そ、そんなことできるなら先に言え!!!」

 まったくこっちは死ぬ覚悟までしたんだぞ!

 まあでも、とりあえず生き残れてよかった……。

 というか、そういやさっきこいつ【スルメ】って言ったよな?

「この世界では、スライムの干物をスルメって言うのか?」

『いえ。このスキル【鑑定】は蒼太様専用ですので、蒼太様に分かりやすいよう自動的に翻訳されます』

「お、おう。つまりオレに説明するのに、一番適切なのが【スルメ】だったと」

『はい。試しにご試食されては?』

 ――こ、このさっきまで動いていたスライムをか?

 いやでも、たしかに言われてみれば匂いはスルメだな。

 さっきまで青かったのに今はスルメみたいな色をしてるし、触った感触もまんまスルメだ。

 ここはもう転生前の世界とは違うわけだし。

 そう文句ばかりも言っていられない――か。よし。

 オレは持ってきた《龍の短剣》で【スルメ】を薄く切り分け、端っこをかじってみた。

「…………うん。完全にスルメだな!」

『はい』

 ――あれ、でも待てよ?

 さっきこいつ、「コンフードと呼ばれているもの以外は、貴族の贅沢品」って言ったよな?

 こんな雑魚モンスターからも簡単に食料が生成できるのに、なんであのまっずいコンフードしか手に入らないんだ? 実はスライムが貴重なのか?

『スライムもほかのモンスターも、体の隅々にまで毒があります。ですので普通の人は食べられません。この世界の食品は、総じて毒抜きが非常に難しいのです』

「…………は?」

 オレ今、食べちゃったんですけど!?

『蒼太様が持つスキルはどれもラスボス仕様の特別なものです。蒼太様が常時オートで発動しているスキル【特殊効果無効】と【浄化】によって、対象に触れるだけで毒は自動的に消滅します』

 ――な、なるほど!? よく分からんが、まあ解毒されて害がないならよかった。

「……にしてもうまいな、このスライムスルメ」

 栄養のことを考えると現状はコンフードも必要だろうが、個人的には【スルメ】を積極的に食べていきたい。元々好きだしな、スルメ。

 乾物だから持ち運びにもちょうどいいし、出汁も取れそうだ。

 オレは残り九体分の【スルメ】もすべて回収し、切り出した残りと一緒にアイテムボックスに収納して、先へ進むことにした。

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