第16話 旅行初日、突然の電話の話
私たちの関係は中途半端に低空飛行したまま、あっという間に旅行の初日になってしまった。
しかも、嫌な予感ばかり当たるものでちゃんとお泊りで。あの時中途半端な返事をしたからかな、なんて反省すれど後の祭り。
しょうがないから、何とか乗り切る方法を考えなきゃ、そう気持ちを切り替えることにした。
待ち合わせ場所の駅では、すでに橘さんが待っていた。前回待ち合わせであんなことになったとはいえ、さすがに駅の中だったら迷わないのに。
そんなことをぐだぐだと話しながら、電車に揺られて30分ほど。すでに県は変わって、景色も少し静かになった気がする。
遠出することがほとんどないからか、どこかそわそわして軽口になっちゃう。
「ねぇねぇ、外見ないの? 楽しいよ?」
「葵ちゃん普段と真逆じゃん。私少し寝たいんだけど」
「え~」
眠そうな顔をしながら、旅行に誘ってきた張本人は窓側にもたれかかって答える。
昨日楽しみで寝れなかったなんて言ってたけど、小学生じゃあるまいし。そうやって頬を膨らませたけど、あくびがちょうど重なって。しょうがないから寝かせてあげて。
友達の寝顔ってこんな感じなんだなぁ。見てたら背徳感を感じて自分に不安になった。
30分ほどして乗り換えをしたら、また電車に揺られて。
しばらくすると海が見えてきて、また気持ちが上がる。橘さんはさっき寝て多少元気になったのか、しぶしぶ、って感じで付き合ってくれてる。
まあ、買い物の時あんなに私を引っ張りまわしてくれたんだから、これくらいいいよね。その時の話を私がしてみたら、無理やり逸らすように楽しそうにしてくれた。棒読みだったけど。
そして目的地の駅に着いて、改札を出たら同じ国なのに全然違う景色に開いた口が塞がらない。吸う空気が全部綺麗でとっても新鮮で、旅行にはまってしまいそう。
隣を見ると橘さんも同じみたいだ。同じ気持ちを感じてるって、なんか嬉しいな。
そうしんみりしていたらお腹が鳴って、二人で吹き出す。
「とりあえずどっか食べれるところ、探そうか」
12時前、恥ずかしくて頷くしかできなかった。
適当に見つけた飲食店に入って二人で海鮮丼を食べてたら、橘さんの方からこんなことを聞いてきた。
「ねえ、私のこと好き?」
「好きだけど。友達として」
発言の真意がわからないけど、思っていることをそのまま口に出す。
「そういうことじゃなくて。例えば家族とか、恋人とか。学校で云々じゃなくて、私自身が好きかどうか」
「学校での橘さんも同じ橘さんじゃないの?」
発言を聞いてさらに訳が分からなくなった。
でもその発言の真意を口に出すことはなんでかできないみたいで、悶々とどう伝えたらいいのか悩んでいるようだ。
ご飯が冷めちゃいそうだから早く食べたいけど、食べてる最中に何か言われたらどうしよう、なんて考えがちらついて様子をうかがったまま手を付けられていない。
そんな膠着状態を変えたのは、携帯の着信音だった。
「ごめん、ちょっと席外すね」
私が軽く頷くと、申し訳なさそうな顔をしながらトイレのほうまで駆け足気味で走っていった。
誰からだろう、どんなこと話してるんだろう。なんて失礼なことを考えながら待っていたら、予想以上にすぐ戻ってきた。
「早かったね」
「うん。お母さんからだったし、内容が内容だったから折り返すねって言って切ってきちゃった」
内容が内容って発言に不安しか感じないけど、人の電話を詮索するのもマナー違反な気がするから深く突っ込まないことにする。
「そういえば、このあとどこに行くの?」
「あまり決めてないんだよね」
「なんじゃそりゃ。何も目的ないじゃん」
そう訊ねるとにたりとした笑いを浮かべて
「いや? 理由っぽい理由じゃないけど、ちゃんとあるよ? 葵ちゃんとがいい理由もあるし」
「私とがいい理由……?」
「それを葵ちゃんに教えるのが、この旅の目的の1つかな」
「なにそれ、変なの」
今日の橘さんはちょっと変だ。いつもちょっと変な人だと思っている気はするけど、それとはベクトルが違う。
最近ちらほら感じる、不安と虚勢が見え隠れするような、そんな不自然さを持っていた。
お店から出て、そばのコンビニの横に移動。何か用事があるようには思えないけど、こっちの方向に何があるんだろう。ないであろう物を想像しながら、考えがあるんだろうからただ後ろをついて歩く。
ふと橘さんが電話をかける。さっきの折り返しだよね。でもだとしたら私がいる意味はないし、待ってた方がいいのかな。
そう思って離れようとしたら、袖を掴まれた。不安だからいてほしいとかじゃなくて、私に用事があるんだってわかる引き方だったから、迂闊に離れることもできず。
変わるね、って声を聴いて私に話が回ってきたのを感じる。
そもそもよく考えたらなんでよりにもよってこの旅行中のタイミングなんだろう。落ち着かない頭をなだめながら、橘さんのスマホに耳を当てた。
「お電話変わりました、高田 葵です」
「澪の母です。いつも娘がお世話になっています」
声から厳格さが伝わってくる。橘さんの育ちの良さはこういうところから来てるんだろうな。でも、あまり歓迎されてないんだろうか。そんな声な気もする。
一抹の不安がよぎる中、本題へと話を頑張って進めることに。正直ちょっと怖い。
「それで、私に話って……」
「そうね。単刀直入に言うと」
「澪とこれ以上関わらないで欲しいの」
それは、全く予想していなかった言葉だった。
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