影の取引

狐の御面@狐先生

影の取引

都会の片隅、古びたアパートの一室に、カズヤという男が住んでいた。彼は日々の生活に疲れ、人々との関わりを避けるようになっていた。ある日、彼の部屋に一通の手紙が届いた。「影を売りませんか?」という内容だった。


興味本位で手紙に書かれていた場所へ向かったカズヤは、暗がりの中、謎の男と出会う。「影を売れば、お金をたくさん差し上げます」と男は微笑んで言った。


カズヤは疑った。「本当にお金をくれるのか?」


男はにっこりと笑った。「もちろんだ。ただし、影を失った後のことは保証しない。」


カズヤは迷ったが、お金に困っていた彼は取引を承諾した。


翌日、カズヤの銀行口座に大金が振り込まれていた。彼はそのお金で贅沢な生活を楽しんだ。しかし、不思議なことに彼の影がなくなっていた。最初は気にしなかったカズヤだったが、次第に人々から避けられるようになった。


ある日、彼の友人であるユウトが言った。「お前、影がないぞ。」


カズヤは焦った。「それがどうした。影なんてなくても生きていける。」


しかし、影のない彼は、人々に恐れられ、孤独になっていった。子供たちは彼を指さし「影のない男」と囁き、大人たちは彼を避けるようになった。彼の近くを通ると、人々は顔を背け、囁き合っていた。


カズヤは絶望し、自らの命を絶とうとした。しかし、彼の体には傷一つつかなかった。彼は死ぬこともできず、永遠の孤独を感じることとなった。


「なぜこんなことに…。影なんて、こんなに大切なものだったのか…。」とカズヤは涙を流した。


数年後、都会の片隅のアパートで、新たな住人が一通の手紙を受け取った。


「影を売りませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

影の取引 狐の御面@狐先生 @kitunenoomen1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る