なんで俺が三次元と?

第22話 星乃 蒼という人間。

 俺は昔もっと明るい人間だったらしい。

 ”らしい”というのは昔の俺のことを今の俺自身がそんなに覚えていないのだ。

 でも、美波からはたびたびそう言われていた。

 小学生の頃はあの事件が起きるまでは明るく元気な人間だったらしい。

 だが、あの事件が起こって以降はかなり性格が変わるといったことは無く中学まではそれなりに明るかったと思う。

 でも、中学三年のころに彼女に浮気のようなことをされて以降自分でもわかるくらいには性格が変わったと思う。

 前までは人を疑う事なんてほとんどしないような人間だったと思う。

 だが、あの事件があってから俺は人を信じることがどうしようもなく怖くなってしまったのだ。

 裏切られることが怖い。

 信用してそれをあざ笑うがごとく踏みにじられるのが恐ろしい。

 そう考えるようになった。

 でも、美波に関しては不思議と信用しても恐ろしくなかった。

 きっと裏切られる恐怖よりも彼女を信用する気持ちのほうが勝っていたのだろう。

 自分でも少し矛盾しているとは思うが仕方がない。


 中学三年生のころあいつに浮気のようなことをされてから俺は今通っている神無月高校を目指した。

 理由は簡単だ。

 地元を離れて独り暮らしをしたいといったときに両親に提示された条件がこの高校に入学することだったからだ。

 俺はその条件を聞いた後に死に物狂いで勉強した。

 それは、現実から目を背ける目的もあったのかもしれない。

 いや、きっとそうなのだ。

 あれ以降学校に行くたびにまさるに彼女といちゃつくところを見せつけられた。


(あの時は結構きつかったな。)


 勝は俺がやってもいない冤罪を信じ込んで俺に虐めまがいなことをしてきた。

 昔はあんなにも仲良くしていたのにいきなり手のひらを返された。

 そして、そんな奴に初めてできた好きな人、初めての彼女だった人をそそのかして俺と付き合わせて仲良くなった後で自分と付き合うという鬼のような所業をしてきた。


(そういえば、あいつはまだ勝と付き合っているのだろうか?)


 前会ったときは半ば発作のようなものが起きてしまったためそこまで頭が回らなかった。


(まあ、会いたくはないから聞きたくもないが。)


 月とはどう接していこうか。

 あんなに真正面から好意を伝えられたことはない。

 だからこそあの子と一緒にいると距離感が分からなくなる。

 決して彼女のことが嫌いという事ではないと思う。

 容姿はかなり整っているし正直俺のタイプドストレートだ。

 二次元にいる天使を現実世界に持ってきたかのような容姿をしているし、

 料理もできる。性格も悪いというわけではないが少々難はある。

 ストーカーだし。

 でも、そこに目をつむればかなりいい人間ではあると思うがそれでも怖いものは怖い。

 そうやって彼女のことを信じてまた裏切られるのがどうしようもなく怖い。

 だからこそ俺は彼女から差し出される手を掴めずにいる。

 恋愛感情を抱くなんて俺には早すぎる。

 だって俺は人を信じることすらまともにできないのだから。

 それに、なんで彼女が俺のことを好きでいるのかがいまいちわからない。

 面識もないはずだし、自分で言うのもなんだが俺にはこれといって取り柄がない。

 そんな俺のどこを好きになるというのだろうか?



 ゴールデンウイーク前日の夜に蒼は寝ころびながらそんなことを考えていた。

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