第21話 昔からの癖だよね?

 月が帰った後、蒼はとある人物に電話をかけていた。


「もしもし?美波か?」


「うん。みんな大好き美波ちゃんですよ~」


 スマホからは元気な美波の声が聞こえてきた。


「はいはい、そういうのはいいから。」


「え~いいじゃん。で、なんでいきなり電話なんてかけてきたの?」


「ああ。お前が結構月に俺の昔のことを教えてたみたいだからどこまで話したのか確認をしようと思ってな。」


「いや、それは前に話したじゃん。」


「いや別に怒ってるわけじゃなくて何を話したのか確認したいだけなんだが?」


「ん?ちょっと待って。今、月って言った?」


 電話越しの美波は蒼の月に対する名称の変化に気づいたようだった。


「ああ。言ったな。それがどうかしたの?」


「いや、どうかしたの?じゃないでしょ!何かあったの?」


 かなり驚いた様子の美波。


「いや特にこれといった変化はないんだが。」


「え~絶対嘘だ。絶対何かあったでしょ!」


「いや?これといってとくには何もないが?」


「もう。言いたくないならいいけどさ。でも、なんだかよかったよ。」


 美波は少し安心したように言った。


「なにがだ?」


「いや、やっと蒼にも少しは信頼できる相手ができたってことなのかなって思ってね。」


「信頼はしてないぞ?」


 蒼は真顔でそんなことを言っていた。


「嘘はいいよ。だって蒼は信頼した人物のことを名前で呼ぶ癖があるでしょ。蒼は気づいてないかもしれないけど。」


 美波は蒼ですら自覚していなかった癖を話した。


「そうなのか?」


「うん。だから蒼は大体の人にはさんずけで呼ぶけど私のことは名前で呼んでるしかなでっちと付き合ってる時も名前で呼んでたからね。蒼が信頼してる人物は名前で呼ぶんだよ。」


「そうだったのか。」


 蒼は初めて自分にそんな癖があることを知った。

 実際あの事件以降蒼が他人を信用することがなかったため自覚する機会もなかった。


「だから、そんな蒼が月ちゃんのことを名前で呼んでるからきっと何かいい変化があったんだなと思ってね。」


「そういうことか。まあ、あったな。」


「ほお。何があったのかね?」


 少し老人のような口調になりながら美波は蒼に尋ねた。


「ただ、悩みを聞いてもらっただけだよ。で少し救われただけ。」


 蒼は淡々とそういった。


「悩みって私が知ってるやつ?」


「いや、お前も知らないな。てか、今まで誰にも話したことがなかった。」


「本当に珍しいね?」


 びっくりしたように美波はいった。

 蒼が自分のことを他人に話すことがほとんどなかったのだ。

 それにくわえて誰にも言ったことがないということは少なくとも美波と同じくらい信用しているということだ。


「そうか?いや、そうかもな。」


 蒼も自分であまり人に秘密を言ってない自覚はなかったため改めてそんな反応をされると自分で納得してしまった。


「そんなことより、美波は月に俺の昔の話をどこまで話したんだ?」


「それは~えっと~、怒らない?」


 少し悩んだように言った。


「相当変なことを言ってない限り怒らないな。」


「えっとね?蒼の小学生の頃の事件と中学生の頃の浮気の話をしちゃった。」


「それだけか?」


「うん。ごめんなさい。」


 しょんぼりした様子で美波は蒼に謝罪した。


「別にいいよ。前も言った通りどうせいつか聞かれてたことだし、お前が月にそのことを言ってたおかげで俺は今日少し救われたんだからな。」


 蒼は穏やかな声で美波にそういった。


「そっか。よかった~。」


「まあ、今度から言い過ぎには気を付けてほしいけどな。」


「あはは~気を付けます。」


「俺が言いたかったのはそれだけだ。じゃあな。」


「うん。またね~」


 こうして美波との通話は終了した。


「ほんとあいつは黙ってれば大和撫子な美人なのに喋ったとたんに残念美人に早変わりだ。」


 蒼はそういって天を仰いだ。


「あれ?そういえばもうそろそろゴールデンウイークか?」


 今が四月の四月末のためもう少しでゴールデンウイークである。


「明日が月曜日で、火曜からか。6連休何するかな?」


 蒼は一人でゴールデンウイークに思いをはせるのだった。


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