第19話 俺は君に救われたんだね。
「で?星乃君は結局何があったのか話してくれないわけ?」
蒼が少し落ち着いたのを見計らって月は蒼に問い掛けた。
「なんのことだ?」
「そうやって逃げるの?」
月は少し踏み込んだことを聞いていた。
「だから何のことだよ。俺は今結構疲れてるんだよ。」
蒼は少しイライラしたようにいった。
そこには多少の疲れも見えた。
「私は前に美波さんに星乃君の過去をある程度教えてもらってるの。だから、もしかしたら星乃君のトラウマにその体調不良が関係してると思うんだけど?」
月はそんな様子の蒼に怯まずに言った。
「あいつ、そんなことまで言ってたのかよ。」
蒼は頭を押さえながら言っていた。
どうやら美波がそこまで話しているとは想像できなかったようだ。
「まあね。でも私が無理して聞いたことだから美波さんを責めないであげて。」
少し俯きながらそういう月
「そんなことで怒らねえよ。でも、お前は俺がこうなった理由を知っていたのか。」
「うん。結構がっつり教えてもらったから。」
「そうか。じゃあ、少し相談してもいいかな?」
いつもとは違い蒼は素直に月を頼っていた。
今の蒼はそれほどまでに弱っているという事だろうか。
「うん。私でよければ全然乗るよ。」
月はいつも通りに元気にガッツポーズをしていた。
「その前に場所を変えてもいいかな?」
「うん。わかった。でもどこに行くの?」
「俺の家でいいか?」
「、、、へ?」
「だから俺の部屋でいいか?」
「あ、え、う?へ?あの星乃君が私を部屋に誘う?、、、へぇぇぇぇぇ!?」
顔を真っ赤にしながら月は叫んでいた。
「おいやめろ。叫ぶな。目立つだろ。」
慌てて蒼はそんな月を止めていた。
「あ、ごめん。わかった移動しよっか!」
ニコニコしながら二人は蒼の部屋に向けて頬を進めるのだった。
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「で、相談って何?星乃君が私に相談するなんて相当珍しいことだと思うけど?」
蒼の部屋に着いてすぐに月は速攻話の核心をついてきた。
「ああ。単刀直入に言うけどさっきトイレの帰りに俺の元カノにあったんだ?」
「それって星乃君のトラウマその人なの?」
「ああ。その通りだよ。美波に聞いた話を教えてくれないか?」
「うん。じゃあ、話すね。」
月はこうして美波に聞いた話をそのまま蒼に話した。
「なるほど。大体はあってるな。でも付け加えるならば、あれは今思えば浮気なんかじゃなかったよ。最初から仕組まれてたんだ。」
俯き拳を握りしめる蒼
「それってどういう事?」
「最初から奏は俺と付き合う気なんてなかったんだ。でも、小学生の頃のグループの男の意向で俺と付き合ったんだ。だから、最初から俺はあいつの掌の上で踊らされてたんだよ。」
そういう蒼は自嘲気味にふっと笑っていた。
それは、すべてをあきらめたかのようにも見えた。
「そんなのって、」
話を聞きながら月は口元を手で押さえていた。
「今はもうそんなに気にしてないよって言っても説得力はないか。」
「で、星乃君はその件について何を相談したいの?」
「ああ。俺はどこで間違えたんだと思う?小学生の頃の話は俺にはどうしようもなかった。俺の知らないところで始まっていて、俺が気づいたときにはもう手遅れだった。奏と付き合ったことが失敗だったのだろうか?俺は、俺にはずっとわかんないんだよ。どこで間違えたのか。で、俺は人を信用しないことを選んだんだ。
自分を守るために。お前が俺に好意を寄せてるのは知ってる。というか、お前がアピールしてるし。でも、俺はお前を信用することが怖くて仕方がない。また裏切られたらと思うと付き合うどころか友人になることすら恐ろしいんだよ。
なあ、俺はどこで間違えたと思う?どうすればよかったと思う?教えてくれ。」
蒼はうつむきながらそう語った。
この二年間ずっと誰にも言わず向き合う事すらしなかった問題を初めて蒼は月に話した。
ずっとずっと考えることすらしなかった出来事だった。
どれだけの沈黙が流れただろうか?
10秒?1分?10分?30分?1時間?
蒼には正確に時間が分からなかった。
「間違ってなんかないよ。」
月の声が静寂を打ち破った。
「え?」
その声に俯いていた蒼は顔を上げて月を見る。
「だって、星乃君はそんな状況でもしっかりと生きてきたじゃない。」
「違う。俺はただ向き合いたくない真実から目を背けてきただけだ。ただずっと逃げてきただけなんだよ。」
蒼は声を荒げて言った。
「星乃君は完璧な人間になりたいの?」
「まさか。俺とは程遠い人種だな。」
蒼は自嘲気味に言った。
その言葉には自嘲とともに皮肉の感情も込められていたのだろう。
「じゃあ、逃げてもいいじゃん。時には逃げることも大切だよ?」
「でも、」
「でもじゃない。星乃君の行動に何一つ間違いなんてなかった。追い込まれた状況下で懸命に生きてきたんでしょ?なら、その行動は間違いなんかじゃないよ。間違いであっていいわけがないよ!」
月も声を荒げて言っていた。
「お前からの好意からも俺は逃げている。」
「待つよ。いつまでも待つ。君が人のことを信用できるようになって、私の好意を受け入れてくれるその日まで。」
月は綺麗な青い瞳で蒼を見据える。
「なんだか、かっこいい言葉だけどストーカーがいう言葉ではない気がするな。」
少し笑いながら蒼はいった。
「それは今言わないでよ!」
「すまんすまん。」
「もう。」
「ありがとうな。月。」
蒼はぽつりとそういった。
「うん。ん?今私のこと名前で呼んだ?」
「ああ。呼んだな。」
「なんでいきなり?」
「いやならやめるが?」
「全然嫌じゃないんだけどなんでいきなり呼んだのかなって。」
「相談に乗ってもらったし、今のお前の言葉に俺は救われたからな。」
「そっか。ならよかったよ。」
そういって月はにっこりと笑う。
「じゃあ、晩御飯でも作りますか!」
「いいのか?」
「もちろん!」
そういって月はキッチンに向かった。
鼻歌を口ずさみながら。
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