第18話 なんでここに君がいる?

「あっ!!やっぱり蒼君だった。」


 そう声をかけてきたのは、蒼のトラウマの象徴ともいえる人物だった。


「おまえ、は。」


「あれ?私だよ私。音無 おとなし かなでだよ~?」


 目の前の少女、奏はそういって手を振っていた。


 この少女は蒼が三次元のことが嫌いになった理由その人であった。


「なんでお前がここに?」


「いや、私だって学校終わりに買い物くらい行くでしょ。蒼はどうしたの?今一人?」


「いや、俺は映画見てて今はトイレから戻ってフードコートに行こうとしているところだ。」


 蒼は顔面を真っ青にしながら返答した。


「一番大事なところの返答が来てないよ!結局蒼君は今一人なの?」


 テンション高めでそんなことを聞いてくる奏


「いや、連れがフードコートで待っている。」


「誰それ?彼女さん?」


 ぐいぐいと体を寄せながらそう聞いてくる。


(なんでこいつはこんなにすらすら話せるんだ?意味が分からない。気持ち悪い。)


 そんな元恋人の行動に理解を示すことができなかった。

 彼女は昔付き合っていたが浮気をして自分と別れたはずなのだ。

 なのに、何の負い目もなく自身に会話を仕掛けてくる奏が心底気持ち悪く見えた。


「いや、俺には彼女なんていない。そいつはただの友人だ。」


「そうなんだ?」


「ああ。じゃあ、俺は行くから。」


「あ、ちょっとまって!?」


 蒼はそういう奏を無視して戻った。

 しっかりと遠回りをしてフードコートへと戻った。


「あ!お帰り星乃君。結構時間かかったね?」


「ああ。そうだな。」


 そう返答をする蒼の顔はかなり青ざめており冷や汗すら浮かんでいた。


「どうしたの?何かあったの?」


 普段と様子が違う蒼を見て心配そうに顔を覗き込む月


「いや、本当に何でもいないんだ。少し休んでいってもいいか?」


「それは全然大丈夫だけど、本当に大丈夫なの?」


 かなり弱弱しい声でそういう蒼をより一層心配するが蒼は一向に理由を語ろうとはしない。


「ああ。少し休めばよくなるはずだ。」


 そういう蒼の息遣いはかなり荒く、顔色やはりかなり悪い。


「ほんとうに?」


「ああ。だから少し休ませてくれ。」


 蒼はそういったきりしばらくしゃべらなくなった。

 どうやら本当に体調が悪いようだった。

 いつもの蒼から感じられる余裕といったものがすべて抜け落ちている。

 そんな印象を受けた。


 ……………………………………………………………………………………………………


(クソっ!なんで今このタイミングで遭遇するんだよ!あいつらと離れるために実家を離れたのに。なんで今になってあいつと会うんだよ!)


 蒼は内心でそういっていた。

 実際蒼は奏たちと会わないために距離のあるところで一人暮らしをしたいと両親に言ったのだ。

 それから一年、彼の中学三年生のころの知り合いと会うこともなく過ごしてきたのになんでこのタイミングで一番合いたくなかった人物と鉢合わせてしまったのだろうか。



「少し落ち着いてきた。」


 蒼がそう月に言ったころにはフードコートに戻ってきてから30分が経過していた。



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