第7話 不在着信って怖いよね?
それからあっという間におかゆを作り終えた蒼はすぐにお盆にのせておかゆを持っていく。
「おかゆ出来たぞ~起きてるか~?」
月の部屋の扉をノックする。
「うん。起きてるよ。」
蒼が声をかけてからすぐに返答が帰ってくる。
「じゃあ、あけるぞ~。」
「どうぞ~」
扉をあけておかゆをテーブルの上に置く。
「小粥ここに置いとくから。食べ終わったくらいの時にまた食器取りに来るから。それじゃ。」
「え?食べさせてくれないの?」
(ん?)
いきなり投げかけられた言葉に蒼を頭はフリーズする。
(一体何を言っているんだ?)
「え、あ、ん?」
「だから食べさせてくれないの?」
再び月は蒼に問い掛ける。
その眼は少し潤んでおりどこか色っぽさすら感じる。
だが、
「いや、それはない。いくら熱が出ているとはいえ自分で食べれるだろ?俺の罪悪感に付け込んで食べさせようとするな。」
普通の男なら食べさせるであろう状況でも蒼は全く揺らぐことがなかった。
まさにオタクの鏡
何なら少し軽蔑を込めたような冷たい視線を月に向けている。
「え?ひどくない?」
少しおどけた様子の月に蒼はきっぱりと言ってのける。
「いやいや。こんな時にお前があんなことを言うのが悪い。」
「でも、あ~んってするだけだよ?しかも私こんなに可愛いんだよ?」
「そこに可愛い関係ないだろ?それになんと言われようが俺はそんなことするつもりもないし、この際言っておくがお前と付き合う気もない。」
そう断言した。
「そんな~。」
少し大げさにガックシと月は肩を落とす。
「わかったらとっととおかゆ食って寝な。じゃないと風邪治らないだろ?じゃあ、俺は行くからまたあとで食器回収しに来るな。」
蒼はそういって本当に出て行ってしまった。
あの状況で冷静でいるのを見ると本当に三次元に興味がないのかもしれない。
(ていうか、あいつ本当に自意識過剰なんだな。)
………………………………………………………………………………………………
「ったく、なんでこんな時にあんなことが言えるんだか。恋は盲目っていうけどここまでくると失明してるだろ。」
蒼は月の部屋から出てため息をついていた。
「あ、今日の配信もう終わってる、、、マジかよ。リアタイできなかった。」
時計を見て推しの配信が終わっていることに気が付き膝から崩れ落ちてうなだれる。
「仕方ない。看病が終わったら家に帰ってアーカイブ見るか。」
蒼は立ち上がって小粥を作るのに使った調理器具を洗い始める。
一人暮らしを始めて一年たっているということもありその手際はかなり良くほんの数分で洗い物を終えてしまう。
さすがに数分で食べ終わることは無いだろうと思った蒼はあと十分ほどスマホでも眺めながら時間をつぶそうと思いスマホを開く。
「は?」
するとそこには大量の不在着信が来ていた。
それが知り合いのいたずらなどならよかった、、、よくは無いのだろうがまだ安心できたのだが、そのすべての不在着信は知らない番号。
全く知らない人からかかってきていたのだ。
(どういうことだ?俺何もしてないよな?)
実際蒼の電話番号を知っているのは両親と友達数人しか知らないため電話がかかってくること自体が珍しいのだが、まさかこんな形で久しぶりの電話がかかってきていたことに蒼は驚きを隠せないでいる。
「なんだよこれ?120件?かけるのに何分かかるんだよ。」
(でも俺ほんとに何もしてないよな?ていうか、120件も電話がかかってきてそれに気づけない俺も異常か。)
蒼は自身に心当たりがないのを再度確認するとともに自身の異常性を再確認すると再びスマホの画面と向き合う。
(やっぱ夢じゃないか、、、)
やはり夢じゃないという現実に落胆しながら蒼はどうすればいいかと考える。
そんな時に突然スマホが震えた。
画面を見てみると表示されているのはやはり知らない番号。
(ちょうどかかってきたな。)
「怖いけど、こんなにかけてきてるならだれが犯人か確かめないといけないよな。」
蒼は深呼吸を一度して電話に出る。
「もしもし?どなたですか?」
「あ~やっと出てくれた!もう何回かけても出てくれないから嫌われたのかと思ったじゃん!」
電話先から聞こえてくる声は女性のもので、蒼がよく知る人物の声でもあった。
「なんだ、美波か。驚かせるなよ。」
電話先の女性の名前は雲海
蒼の幼馴染の女の子であった。
「なんだとは何だよう。約一年ぶりに話すのに。」
「確かに中学を卒業してから一回も話してなかったな。それに俺はそっちを離れてるからなおさら会えてなかったしな。」
「そうそう。でもなんで電話に出てくれなかったの?」
「いや、それがお前からの電話が違うくなっててな。それに俺に電話かけてくる奴なんてほとんどいないからそもそもさっき気づいたんだよな。」
少し気まずくなりながら蒼は説明をする。
「あ~そういえば私最近電話番号変えたからそうなってたのかも。」
「なんだそういう事か。それにしても120件はやり過ぎだ。かけるのに何分かかってるんだよ?」
どうやら美波の少し抜けている性格は昔から変わっていないらしい。
「ごめん。完全に忘れてた。そんなことよりも蒼は最近元気にしてる?」
話題を変えて美波は蒼の近況を聞く。
120件のことはうやむやにしたいみたいだった。
「どうと言ってもな。特に何もないぞ?いつもどうりに推しの配信を見て、勉強はそれなりにしてって感じだな。そういう美波こそ最近どうなんだよ?」
「私?そうだなぁ~私も変わったことは無いけど最近スマホを買い替えたくらいかな?」
「そっか。まあ元気そうでよかったよ。」
蒼は電話をしながら少し穏やかな気持ちになった。
心の底から信用している幼馴染と話しているからだろうか?最近蒼が感じていた疲れも少し軽減されたように思える。
「そっちもね。今回は蒼が元気かどうか気になって電話しただけだからそろそろ切るね?」
「ああ。久しぶりに話せて楽しかったよ。またな美波。」
「うん。私も楽しかったよ。またね蒼。」
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電話を終えた蒼は再び月の部屋をノックしていた。
「食べ終わったか~」
「うん。おいしかったよ。ありがとね。」
「お粗末様でした。じゃあ、食器を回収するから入るぞ。」
「うん。入ってきていいよ。」
月の許可をもらうと蒼は扉をあけて部屋に入る。
そしてテーブルの上に置いてあった食器をもって部屋を出ていこうとする。
「ちょっと待って!」
「ん?何か用か?」
いきなり後ろから声をかけられた蒼は振り向いて月を見る。
先ほどより少し顔色が良くなっていることを確認して心の中で安心する。
「えっとさ、さっき電話してた?」
「ああ。してたな。すまんうるさかったか?」
「いやいやそんなことは無いんだけどね。ちょっと会話が聞こえちゃってさ、美波さん?ていう名前の恋人がいるの?」
少し目を潤ませながら蒼に問いをなげる。
「は?」
蒼は想定外の質問に頭が真っ白になった。
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