第5話 看病ってありがたいよね?

 ピンポーン

 ピンポーン


「ん、あ?」


 あれからぐっすり眠っていた蒼はチャイムの音で目を覚ました。


(俺なんか注文してたっけ?)


 朝よりは少しばかり体調がよくなった体を起こして玄関に向かう。

 ドアスコープを覗いて誰が来ているのかを確認する。

 そこにいたのは、最近になって見慣れつつある少女、陽炎 月だった。


 ドアを開けて顔を出す。


「お前、こんなところで何してるんだ?」


「あ、やっと出た。全く早く出てよね!」


 少し不機嫌そうに言う


「すまない、今まで寝てたもんでな。てか、俺が怒られるのはおかしくないか?」


「そんなことより今日は何で学校休んだの?すごく寂しかったんだから。」


「普通に熱が出てただけなんだが。」


「えっ、星乃君熱あったの?」


「まあ、寝て少しは落ち着いたとは思うんだけど。」


 今朝に比べて体は幾分か軽くなっていたため少しは熱が下がったのだろう。


「というわけで、今日は帰れ。」


(こいつに移したら不味いしな)


「いや、帰らないよ?」


「は?なんで。」


 当たり前のように俺の家に入ってこようとする月に少し戸惑いつつも蒼は拒否をする。


「マジで帰れって。お前にうつしちゃうかもしれないだろ。だから、今日は帰ってくれ。」


「いやいや、風邪をひいてる蒼君を一人にしないし、看病してあげるよ。」


 にこにこしながらそう言ってのける月。

 ここだけ見れば本当にできた女の子なんだ。

 ただ、少しストーキングをしているだけで、、、


「いや、でも、」


「いやもでももない!いいから病人は黙って看病されてて。私の家からいろいろ持ってくるからおとなしく待ってて。」


「わかった。」


 結局押し切られた蒼はいわれるがまま部屋の戻った。


「星乃君は今日何か食べたの?」


「いや、ずっと寝てたから何にも食べてないよ。」


「そうなんだ。食欲はある?」


「普通にある。」


「わかった。小粥作るからまっててね~」


 月はキッチンに向かっていった。

 改めて部屋で一人になると不安がこみあげてくる。


(いつも一人だったから気にならなかったけど人と過ごしてるとなんだか一人が寂しく思えてくるな。)


 蒼は一年間一人暮らしをしていたので、一人になれたと思っていたのだがここ最近ずっと月といたためいきなり一人になってしまうと寂しく感じてしまうのだ。 



「持ってきたよ~」


「ありがとう」


「はい、あ~ん」


「なにしてるんだ?」


「え?あ~んだけど」


「そんな当たり前みたいに言われてもな」


 月は、ん!とスプーンを突き出して引っ込めようとしない。

 抵抗する労力も今の蒼にはなかったため素直にスプーンを口に入れる。


「うまい!」


「え、ほんとに食べた、、、」


「お前があ~んしてきたんだろうが。」


「本当にするとは思わなかったから。」


 月は頬を赤くして俯きながら蒼のことを小突く


「痛いんだが?」


「ばか、知らない。星乃君はこれでも食べてて!」


「むぐっ!?」


 アツアツのスプーンを口の中にぶち込まれその熱さに悶絶する。


「いきなり何すんだよ!やけどするだろ。」


「今のは星乃君が悪い。」


「なんで?」


 心底わからないといった表情で月を見つめる蒼だが、月が何も言わないため諦めておかゆを食べることにする。

 もう器などは机の上に置いてあったため自分ですくって食べた。


「ご馳走様。」


 蒼はそういって手を合わせる。


「お粗末様でした。」


「じゃあ、食器は俺が洗うから。」


 蒼はそういって立ち上がろうとしたが月にとめられた。


「星乃君は病人なんだからしっかりと休まないと。私が洗うから星乃君は寝てなよ。」


 月はそういうと食器をもって部屋を出て行った。


 その間蒼はというと、


(すごく申し訳ないなあ~)


 罪悪感に苛まれていた。


 ……………………………………………………………………………………………………

「星乃君は明日も休むの?」


 食器を洗い終わった月はすぐに蒼の部屋に戻ってきて蒼に尋ねていた。


「どうだろう?体調次第だとは思うけどなるべく行っときたいな。」


「そうなんだ。よかったぁ~」


 安心したように息を吐く月


「それよりも看病してもらってなんだが今日はもう帰ったほうがいいぞ?これ以上一緒にいたら風邪が移っちまう。」


「それもそうだね。じゃあ、また明日学校で!」


 月はそういうと足早に家から出て行った。


「ほんと、行動力すごいなあいつ。」


 家に一人残された蒼はぽつりとそうつぶやいたのだった。



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