第4話 トラウマって誰もが抱えてるよね?

 次の日も結局月は俺の家に来ていた。


「やっほ~やってきました月ちゃんです。」


「お前、今来たみたいな雰囲気で言ってるけど学校からずっとくっついてただろ。」


「そうだけどさ。こういったほうがなんか面白いじゃん?」


「全然おもしろくねぇ。」


「まあ、いいじゃん。そんなことより今日の夕飯は何がいい?」


「じゃあ、ハンバーグで、」


「おっけ~ハンバーグね。意外と可愛いじゃん星乃君。」


「別にいいだろ。」


(こいつ、自然に夕飯を作る方向にもっていきやがった。)


「星乃君ってさ、ちょっと変わってるよね。」


 いきなり人のことを変わっているという月に蒼は呆れ初めて肩をすくめる。


「いきなり何だよ?変人扱いか?」


「いや、そういうわけじゃなくてさ。普通の人ならこんなストーカーみたいな人を家に上げないと思うからさ。」


「お前自分がストーカーっていう自覚あったんだな。」


 蒼は少し茶化したように月に言う。


「う、そんなことはいいから答えてよ。」


 と、苦い顔をしながら月は言った。


「そうだな。お前ストーカーではあるけど悪い奴ではないし、別に一人で家に居ても配信見るくらいしかやることないからお前がいてもいなくてもそんなに変わらないからかな?」


「褒められてるのか貶されてるのか判断に困る。」


「さあな。でも一緒に居ても悪い気はしないからな。」


「そうなんだ。好きになりそう?」


「いや、全然。俺三次元に興味ないからさ。」


「即答!?少しは考えてよ。」


「考えた結果だよ。」


 蒼はそういって月から視線を外して適当に家の掃除をすることにした。

 理由は簡単、同年代の女の子に料理させて自分はくつろぐっていうのが居心地がとんでもなく悪いからである。


「別に自由にしてていいんだよ?」


 それに気が付いたのか月は蒼に声をかける。


「いや、落ち着かないから掃除でもしとくよ。」


「律儀なんだね。星乃君って。」


「そんなことないと思うけどな。」


 この会話を最後に二人は黙々とそれぞれの作業を進めていった。


「「いただきます。」」


 二人して手を合わせて月が作った夕飯を食べる。


「やっぱりうまい。」


「どう?お嫁さんにしたくなった?」


「いや、それはない。」


 月はことあるごとに嫁だとか恋人だとかにしたいかを聞いてくるのだ。

 その質問に蒼はいつも即答で否定をしている。


「なんでいっつも即答なの!?」


「なあ、陽炎知ってるか?二次元は大体裏切らないが三次元は簡単に裏切ってくるんだぞ?」


「いや、私は裏切らないから!」


「この世の中に絶対なんて言葉は無いんだよ。」


(あの時もそうだったしな。)


「どしたん?なんか暗いよ星乃君。」


「いや、何でもない。」


(こいつ本当に勘がするどいんだよなぁ)


 今日で二日目になる二人の夕食の時間は終わり月は帰っていった。

 蒼は静かになった部屋で一人アニメを見ていた。

 時刻はすでに12時を回っており、明日も学校があることを考えればそろそろ寝なければいけない時間になっていた。


「そろそろ寝るか。」


 蒼はテレビの電源を消し、歯を磨いて布団にくるまる。

 瞼を閉じてから数分で蒼の意識は落ちた。


 …………………………………………………………………………………………………


「俺達一生友達だからな!」


「当たり前だろ!」


「うん。そうね!」


「当たり前じゃない!」


 小さい公園に小学生ほどの子供が四人で遊んでいた。


 蒼はこの光景を知っている。


(なんだ、夢か。)


 その瞬間に蒼はこれが夢であると自覚する。

 いわゆる明晰夢という奴だ。

 この夢を見るのはこれが初めてというわけではない。

 よって、蒼にはすぐにわかる。わかってしまうのだ。

 自身のトラウマが再生されているということに。


 …………………………………………………………………………………………………


「お前なんか最初から友達だなんて思ってねぇーよ。」


「話しかけないでよ気持ち悪い。」


「もう関わらないで。」


 先ほどの場所と同じ場所で一人の少年が責め立てられていた。

 その少年こそが星乃 蒼 だった。


(またこの夢かよ。)


(もうやめてくれよ。こんなものもう観たくないんだよ。)


 蒼がそう思っていても夢は繰り返される。

 そして、突然視界が真っ暗になる。


 …………………………………………………………………………………………………


「はっっっ」


 不快な電子音が鳴り響いている。

 時刻は7時

 いつも起きる時間ではあるのだが、


(なんか寒気がする。)


 蒼の体は全力で不調を訴えていた。

 重くだるい体を引きずって体温計を取りに行く。

 熱を測ってみれば39.1度

 高熱であった。


「あんな夢を見たからかなぁ」


 蒼はすぐに自身が通っている学校に電話をして休むことを伝えてもう一度ベットに戻る。


「おとなしく寝てよ。」


 蒼は再び瞼を閉じて眠りについた。

 今度はあんな悪夢を見ないことを願いながら。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る